SSブログ

『はじまりは5つ星ホテルから』──女性版「マイレージ、マイライフ」 [映画レビュー]

  『はじまりは5つ星ホテルから』(マリア・ソーレ・トニャッツイ監督、2013年、82分、原題『VIAGGIO SOLA /A FIVE STAR LIFE』、イタリア映画)

 

   小さめのキャスター付きスーツケースで、空港からホテル、ホテルから空港へ、颯爽と移動する、おとなファッションの女性は、やはり、あのジョージ・クルーニーに重なる。決して若くはないが、まだ性的な美しさをまとっている主役のマルガリータ・ブイがとてもいい。監督も女性なので、この主人公は、元カレの子どもを宿す、彼女よりやや若いと思われる魅力的な女性よりずっと清潔感があり、そのキャスティングが、厳しい女性の目をくぐったものであることが納得させられる。

 

 5つ星ホテルにあこがれるのは、たぶん女性の方が多いだろう。サービスの行き届いた異空間は、女としての自分を蘇らせてくれる。しかし、私の経験によれば、5つ星のなかでもいろいろあり、私程度が、オーバーブッキングで幸運にも案内される(笑)5つ星は、世界に名だたるホテルとは違って、ごくごく平凡なものである。だいたいが、本編に出てくるホテルなど、私にはまったく縁がない。それだからこそ、観ようというものである(笑)。

 

   主人公の職業が、5つ星ホテルの覆面調査員という設定が効いている。彼女は「プロ」なので、ホテルのゴージャスさには決して溺れない。ホテルを冷徹に調べ上げる。そのクールさを、このマルガリータ・ブイがよく体現している。ブイ演じるイレーネは、元カレとは十数年も「親友」の関係を保っている。こういう描き方も、いかにも現代女性の視点である。そして旅先、つまり彼女にとっては仕事先のホテルで、さまざまな人物と出会う。すてな熟年男性との接近したり、前衛著述家のオバサンに圧倒されたりする。

 

   さて、ほんとうに愛する人を見つけるのかな、と思うと、物語は、「ハーレクイン」を拒否する。原題のイタリア語は、「一人旅」。英語は、「5つ星生活」。そして邦題は、いかにも思わせぶりである。

 

   最高のホテルとは、一生に一度かも知れない「新婚さん」にも、「おひとりさま」の女性客にも、惨めさを感じさせず、最高の「お・も・て・な・し」を提供できるホテルである……と、この映画は暗に言って、観客は、この映画のほんとうの主役がホテルであることを知る。

 

   『マイレージ、マイライフ』のジョージ・クルーニーは、勝手気ままな自分の生活の非を認め、映画はわかりやすい結末へと収れんしていったが、さすがイタリア人、本作はそんな三つ星的な終わり方はしない。

 

 


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

makimaki

観ました読みました39
by makimaki (2014-04-05 11:55) 

rukibo

makimakiさん、いつもありがとうございます。
by rukibo (2014-04-05 16:25) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。