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『検証 「イスラム国」人質事件』──記者の基本から見えてくるもの(★★★★★) [Book]

『検証 「イスラム国」人質事件』(朝日新聞取材班、2015年6月27日刊、岩波書店刊)


 


 パリの同時多発テロ後に必要があって本書を読んだ。というのも、ネットには、基礎的な事実ではなく、不確かな情報をもとに、まことしやかな言説のみが垂れ流されているといった印象を持ったからだ。信頼性のあるニュースソースを明示、そのうえで、自分の考えを述べるのが基本だと思った。


 その点は本書は、記者の基本がきちんと遂行されている。2014年の1月に発覚した「日本人人質事件」が、どの時点から、はじまり、どこで終わったかを、犠牲者の経歴、危険地域に入った状況、「イスラム国」というものの成り立ち、関係者への取材、とりわけ、日本政府=安倍政権の動きを、細部に至るまで、正当な取材かつ、私見を述べずに淡々と綴られている。巻末には、客観的に評価しうるキャリアのある識者へのインタビュー2件も付いている。


 そういう静かな記述の本書であるが、驚くべき事実が浮かび上がる。「イスラム国」の「領土」(それはシリアにあるが)は、フランスより広い。だが、戦艦も飛行機も持っていないので、突然外国に攻め入ることは(2014年の時点では)不可能である。だが、国家を目ざしているので、地元民を取り込み、インフラの整備、子供たちへポリオワクチンを配ったりしている。一方で、ネットなどに残酷な動画を流し、国と国とをジレンマに陥らせて、欧米を中心とする諸国の関係を混乱に陥れている。その「攻略」はかなり巧妙である。


 こうした相手に対して、日本政府=安倍政権は、「テロリストとは交渉しない」をモットーとして、「それなり」努力した、その記録でもある。だが、この「努力」は、どうやら、逆効果であったようだ。まず、「テロリスト」と呼んだ時点で、火に油を注ぐ行為だったと、識者は指摘する。


 もうひとつのまずい点は、後藤さんの妻とIS(「イスラム国」)との直接のメールのやりとりを完全に無視したことである。つまり、日本政府は、一度として、ISとは、直接交渉しなかった。「テロリストとは交渉しない」という言葉は、聞こえはいいが、ひとりひとりの命はどーでもいいということである。


 さて、本書が出版された時点では、まだ、パリのテロは起こっていなかった。それが起こって、世界中がまたISについて騒ぎ出している時に本書を読めば、少しは見えてくるものもある。欧米に都合のいいように分断された中東は、どのような「復讐」をしてくるのかということである。ISの側に立つ気持ちは毛頭なくても、中東の軍事政権は同じような斬首やテロをしていたのだし、それがネットで流されなかったいうだけであるという事実は揺るがないし、またそういう政権を、欧米は支援もしてきたのだということである。


 


 それから、本書から受け取った「オマケ」として、安倍首相は、かつて福田赳夫首相が、「超法規」的措置として、日航機ハイジャック事件(1977年)で、「人の命は地球より重い」として、犯人の要求に応じ、拘束犯を釈放し、身代金600万ドルを払った「ダッカ事件」を、「憲法違反」と批判していることである(笑)。まあ、だから、憲法を変えるというハナシにもつながるのであるが。昔の政治家の方がエラかったのでは?


 




 

検証 「イスラム国」人質事件

検証 「イスラム国」人質事件

  • 作者: 朝日新聞取材班
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2015/06/27
  • メディア: 単行本


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