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『団地』──日本一の舞台女優+洗練の結末(★★★★★) [映画レビュー]

『団地』(阪本順治監督、2015年)


 


 本作の団地とは、今、普通にいうところの、マンションといったところか。暮らしている人々は、日本の中流である。生活にはそれなりにゆとりのある人種。しかし、かつて、団地は、ブームであった。今は空き室の目立つ団地。


 藤山直美が、朝から窓を開け、はたきをかけたあと掃除機をかけている、のが、「外から」描写される。カメラはどの位置にあるのか──。「あり得ない目線」である。


 そう、「あり得ないことがあるってのが団地」。冷静に考えてみると、舞台劇のように、場面も登場人物も限定されている。セリフのやりとりが中心である。


 愛すべき「地球の人間たち」の、ささやかなことが描写される。半年前、ある事情から、漢方薬局を閉めて、団地に引っ越した、藤山直美と岸部一徳夫婦。なにやらわけあり。迎える、石橋蓮司の自治会長と、大楠道代のゴミ管理係夫妻、ウワサ好きの主婦たち、子ども虐待疑惑の中年男。阪本順治+藤山直美が、そういった、いかにもありそうな団地のエピソードを面白おかしく活写してオワリ、は、ない。


 予告編でも描かれていたように、岸部一徳は、団地の部屋の床下収納(そんなものがあることじたい、すでにして、「マンション」なのだが)に隠れることにする。なんで? 「他薦で出馬した」自治会長選挙に落選し、「あのヒト人望ないからね」という主婦連の陰口をきいてしまったから。だいたい、岸部は、「自分なんかとてもとても……」などと遠慮しながらも、もし当選したらこうしようと、それなりの「夢」を手帳に書き付けていた──。妻の藤山は藤山で、パート先のスーパーで、どんくささを叱られる。そんな日々。どうってことない。夫婦は漢方薬局を営んでいて、とくに岸部は漢方に愛着を持っている。団地の部屋には、漢方の材料などが置いてある。店を閉めても、「おたくの漢方でないと……」という熱心な顧客が訪れる。その若い男はイケメンで──。


 さあ、それから、どんどん「普通のストーリー」を外れていく。冒頭からして、音楽が妙に洗練されている。最も洗練からほど遠い大阪のオバチャン──。あ、あ、あ……という展開、結末……、誰も見たことのない洗練の結末。


 しかしながら、本作の「キモ」は、日本一の舞台女優、藤山直美の全身を使った演技である。喝采!

 


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