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『サウスポー』──ギレンホール、リベラルな肉体(★★★★★) [映画レビュー]

『サウスポー』(アントワーン・フークア監督、2015年、原題『SOUTHPAW』


 


 15年前の『トレーニングデイ』で、ベテラン刑事のデンゼル・ワシントンが、ひよっこイーサン・フォークをシゴきまくってイッチョウマエにした、あるいは、『ザ・シューター』で、マーク・ウォールバーグに孤高のスナイパーを演じさせた、アントワーン・フークア監督が、『ロッキー』の二番煎じ映画など作るわけないし、『ジャーヘッド』で、若くして地獄を見てしまう映画を好演したジェイク・ギレンホールが、デ・ニーロみたいな肉体改造(だけ)の『レイジング・ブル』の二番煎じもやるわけはない。


 本作は、アフリカ系監督なので、キャストの黒人率が高い。よって、黒人のなかには、ワルモノもいるし、イイモノもいる。


 ここに描かれているのは、プアー・ホワイトである。主役のボクサー、ビリー(ギレンホール)とその妻のモーリーン(レイチェル・マクダムス)は、施設で育った幼なじみである。キレやすいビリーを、世間から守ってきたのは、妻のモーリーンで、複雑な決定をすべてしてきた。ここからして、お飾りの美人妻ではない。しかし、その頼りの妻が、ひょんな諍いからピストルの流れ弾が当たり死んでしまう。その争いのもとは、若手ボクサーに挑発され、ビリーがキレたことに端を発する。ボクサーとして頂点にあったビリーは、それを境に凋落の一途を辿る。ボクシング・ビジネスのヤカラにも見捨てられる。夫婦の忘れ形見の娘の養育権まで怪しくなり、とことん落ちたビリーは、最後の藁を掴むように、あるボクシングジムを訪れ、そこで、一からやりなおす──。ここまでは、結構長い。しかし、ビリーの人物造型からすると必要な長さである。


 さて、その下町のジムにいたのは、フォレスト・ウィティカーである。かつてはすごいボクサーだったことは「お約束」かもしれない。しかし、そのあたりの関係も、じっくり描かれる。


 ひよっこイーサンは、デンゼルに教えられたが、おぼっちゃまジェイクは、ウィティカーに教えられるのである。彼の弱点。おのれを防御する方法を。そこのところの「トレーニング」がていねいに描かれる。


 結局、ビジネスの話として、リベンジのチャンスがやってくる。相手は、ジェイクを挑発した若手で今は頂点にある。そう、どうせ、ジェイクが勝つのだが、彼は、終始、マッチョからほど遠く、肉体もそれほどムキムキに「改造」しているわけではない。まあ、言ってみれば、リベラルな肉体ってとこか。


 ホンモノのプアー・ホワイトあがり、エミネムのオープニング曲と主題歌が、プアーものの意地を歌い上げる。『トレーニングデイ』のラップをいまだに聴いている私である。



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