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『永い言い訳 』──甘美な悲惨(★★) [映画]

『永い言い訳 』(西川美和監督、2016年)


 


 映像は美しく、音楽はセンスよく、心地いい映画だ。本木雅弘の演技は最高。少なくとも、『ベストセラー』のジュウド・ロウより作家らしく見える。とくに、芥川賞を取って、テレビに出て、「そのおかげで読書量が減ったんですよね」と言っているバカ(顔もバカヅラしている(笑))。近頃ありがちなバカ作家、を、ものの見事に演じている。また、池松壮亮扮する、その作家のマネージャーのような役割をしている編集者(?)も、ほんとうは子持ちで、でも口調は甘えっ子のような若者は、本人の地も入っているのだろうが、なかなか惹きつけるものがあった。作家の妻で、美容院経営の、というか美容師の、深津絵里も、寂しげな透明感を少ない場面でよく出していた。


 しかしだ、この口当たりのいい作品と、語られている題材には、大きな齟齬がある。主人公の妻は、「最近ありがちなスキーツアーバス事故」でいきなり死ぬが、いったい、自分の妻がこのようにして死に、その最中に、「妻のベッドで」ほかの女と性交していた男というのは、世の中にどれほどの確率で存在するのだろう? 


「まったく泣けなかった」と主人公は言い、妻は妻で、遺品となった携帯に、「愛してない、ひとかけらも」というメッセージを、死に際に残す。このあたりから、作者(監督本人の小説でもある)の「作り事」が入り込む。確かに小説は作り事だが、だからといってウソっぽくなってしまったら、それは一種の破綻なのである。監督の現実に対する認識はいかばかりだろうと訝る。


 たとえ愛し合っていない夫婦(世の中、その方が多いのではないか?(笑))だとしても、人間としての感情があるはずだ。人間として、バス事故で破壊された遺体を見たらどう思うか? 泣くとか泣けないとか、そういう問題以上に、もっと即物的な思考に人間は追いつめられるのではないか? この点が完全に省略されているので、そこに作品としてウソが入る。ウソが入ると、すべてが、「ありがちなパターン」で動いていく。妻の親友の遺児たちと和んでいくのも、イージーといえばイージーな展開である。ただ、そのあたりを、本木は、脚本以上の存在感をもたらしている。ただただ本木の演技だけで成り立っている映画である。


 遺児の兄妹役の子役たちも、幼いながら達者であったが、PG12の映画の試写を、果たして、これらの子役にも見せたのか?


 名作というのは、決して口当たりがいいものではなく、どこか、どこにもないオリジナルな真実を含んでいるものだが、残念ながら本作には、そういったものはひとつもない。


 そして、本作には、職業差別(主人公の妻、妻の親友の夫、など)と障害者差別(理科教師(?)が吃音である必要はない)が添加物のように含まれていることは、言っておくべきだろう。



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