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『スノーデン 』──レーヴィットのおしゃれな軽さ(★★★★★) [映画レビュー]

『スノーデン』(オリヴァー・ストーン監督、2016年、原題『SNOWDEN』)


  きわめて難解な映画であり、ジョセフ・ゴードン・レーヴィット演じるスノーデンは、実際はともかく、本作では、きわめて倫理的、哲学的思考のできる人物というか、そういう思想的に繊細かつ深い知性を持った人間として描かれている。これは、軽さと知性を合わせ持つ、「うす口しょうゆ顔」のレーヴィットあってはじめて実現できた映画とも言える。


  難解というのは、扱っている情報操作、ハイテクの世界が、この映画を制作していく時間経過の間にも、陳腐化してしまうということだ。


 すでにして、テロ対策のための衆人環視などあたりまえのことであり、イギリスはそれによって未然にテロを防いでいる。また、Facebookは、私企業にすぎないが、膨大な、われわれの、飲んだり食ったりの写真さえ、データとしてため込み、北欧あたりに建てたビルに蓄積しているとも聞く。そうして、そのデータを、企業や、もしかしたら、国家に売っているのではないだろうか? 心地よく、写真など無限大に埋め込むことのできるFacebookなど、まことに「ただより高いものはない」の世界である。


  本作の主人公である、元CIAおよびNSA(アメリカ国家安全保障局)の職員であった、エドワード・スノーデンは、ウィキリークスのアサンジとは、どこか混じり合った印象である。ただ、スノーデンの方が、真剣度が高いだろう。これは彼が、いかに国家に忠実な青年であり、そんな青年が忠実なあまり、いかにその国家を裏切ろうと決意したかの心の動きを描いている。


  Yahoo!レビュー欄にあったお馬鹿レビューの、会社から金をもらっているのに、会社を裏切るなどもってのほかである、てな意見。確かに東芝だったか、担当部署で知り得た技術上の機密を韓国だったかに洩らしていた派遣社員がいた。しかし東芝だったかは、べつに、市民をスパイしていたわけではない。


 作中にもその問題は出てくる。国家に背けば犯罪であるが、国家事態が犯罪を犯していたらどうなる? スノーデンは、ナチスを裁いたニュルンベルグ裁判をたとえとしてあげている。われわれの市民生活は街角におかれたカメラ、GPS、あるいは、ネット接続のサーバーへのハッキングなどによって監視されているかもしれない。しかし、それらはただのデータの蓄積にすぎない。しかも膨大な。それらに意味をもたらすのは、「解析」である。いかに解析するか。そのためには、今後もスノーデンのような憂愁なコンピューター・オタクを必要とするだろう。


  スノーデンはロシアに逃れ、今もロシアに住んでいるそうだが、ひょっとして、つい最近のトランプを勝たせたアメリカ大統領選に、プーチンがサイバー攻撃で関与したというが、このスノーデンのようなオタクたちが協力していた?などと邪推することもできる。


 本作がすばらしいのは、社会派の題材ながら、映像やカット、音楽がスタイリッシュなところである。なにかの受賞式で、タキシードの襟に缶バッチをつけていたレーヴィットのセンスが本作にもみなぎっている。

 



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