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『エターナル』──細部が一挙に見せる物語の全貌(★★★★★) [映画レビュー]

 『エターナル』(イ・ジュヨン監督、 2017年、原題『A SINGLE RIDER』)



 M・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』(1999年)、アレハンドロ・アメナバール監督、ニコール・キッドマン主演の『アザーズ』(2001年)と、同工異曲と言ってしまえば、それらの映画を観た人にはネタバレかもしれないが、本作は、やや趣を異にしている。それこそハリウッド系の映画を見慣れた観客には、静かすぎ、どこか平坦な感じがする。しかし、この静けさ、平坦さも、「オチ」にむけての伏線と思えば納得がいくし、ビジネスマン、イ・ビョンホンの妻が弾くバイオリンとも重なって、音楽が「その世界」を創り上げている。



 証券会社の不良債権事件の責任の一端を担わされた支店長というのが、イケメン、イ・ビョンホンの役どころで、近年ありがちな「事件」を背景に、巻き込まれた一ビジネスマンがすべて失い、最後には、一番大切ものをも失う。その大切なものを失った時、見えてくるのが魂の存在であるが、そういった存在を描いているようでもある。本来なら、日本でもこうした物語が作られてしかるべきだが、「基地国家」日本は、そこから逃げ、おもしろおかしい、またロマンチックな絵物語のような映画を撮り続けている。このウソ寒さ、この静けさこそ、現代人の魂の在処かもしれないのに。



 主人公のイ・ビョンホンは、証券会社の支店長で、エリートビジネスマンであり、さらなる安定を求めて妻子をオーストラリアに移住させる。自分は韓国に残り仕事を続けていて二年間離れたままでいる。会社の事件によって、なにもかも失い、妻子の住むオーストラリアのシドニーを訪れる。そこで、あちがちな、韓国人でバックパッカーの女子と知り合い、彼女が通貨交換のレートが少しでも高い韓国人グループにひっかかり、全財産を失った時、いきずりであったイ・ビョンホンに助けを乞う──。ビョンホンは妻の住んでいる家に行き着いて、外から妻子の生活を眺める。隣家の白人男と仲よくしている様子なども観察する。自分の息子の前にだけ、現れてみせる──。妻は永住権を得るために、バイオリンのオーディションを受ける。いったい妻はなにを考えているのか。細部。この夫婦は互いに、いっしょにいた頃の細部を思い出す。そしてその細部が一挙に「物語」の構造の全貌を見せる時、われわれは魂の存在を感じて涙する。



 繊細な美形のイ・ビョンホンあっての映画でもある。




 



 


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