【詩】「暗闇と忘却のうちに眠るもの」 [詩]
「暗闇と忘却のうちに眠るもの」
暗闇と忘却のうちに眠るものを守るために、
駅の痰壺のなかの痰が真珠色に輝き、
広場の宝飾店の宝石が通りをゆく肺病の労働者に
語りかける──。ここは、
パリの郊外の、誰も知らない、アマゾンの倉庫
注文の品を棚から集めるピッカーは、
白人は少なくて、オリーブ色や黒檀や赤銅色の人々
巨大な倉庫を一日フルマラソンぶんの距離を
走り回って、すでに足裏にはりっぱな水疱が
できている。そして彼は、時給九六〇円で十時間半
働いて得た金で、
ひとつ千円のフェイスブックの偽アカウントを買い、
二十二億人のなかの白人男となって、社交なんぞを
楽しむ。データは売られている、データは売られている
それで、トランプが勝ち、プーチンが勝ち、
イギリスはEUを離脱した。
ITの激しい迷路は、さすがの火星人も想像できなかった
火星にはITはない。火星人たちは、そういう道を選ばなかった。
あるのは、革命。
西暦一七八九年に起こった、フランス革命と呼ばれるものは、
その後十年続いたが、
そうした革命は、火星では永久に続く。
「天使の忍従振りで降り続ける雨の季節」*それを、
渇望しながら。だが、
火星に雨は降らない。代わりといってはなんだが、
パリには、茸のように詩人を生やし続けるほど、雨が降る。
(*ラフォルグ「冬が来る」(吉田健一訳、より引用)
2018-05-25 10:38
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