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『焼肉ドラゴン 』──根岸季衣贊江+★(★★) [映画レビュー]

『焼肉ドラゴン』(2018年、鄭義信監督)

 

 本作の監督は、脚本で賞を取ったというが、脚本がひどいと思った。1970年前後、大阪万博で湧く大阪の片隅の「国有地」らしき場所に、トタン屋根のバラック群。その奥に、「焼き肉ドラゴン」と呼ばれる店。集まっているのは、常連らしき三、四人で、とても生計をたてていけるだけの儲けがあるようには見えない。見れば、店主の夫婦には三人の娘と一人の息子、計六人は「家族」である。娘たちがかかわる男たちも入れたら、「いちげんさん」はとても入れないお店。ホルモン屋の内実が描かれるわけでなく、語り手である末っ子の男の子は、有名私立校で韓国人であることをもとに苛められるが、イジメも型どおりなら反応も型どおり。ナレーターなので、なにか生き抜く知恵でも見せてくれるのかと思えば、あっさり途中で自殺してしまう。再婚同士の韓国人の夫婦は、戦争の時の辛さを言葉で語って終わり。

 庶民の力を見せてくれるわけではなく、映画の中心は、三人の娘の「濡れ場」(爆)。とくに、次女、井上真央の、「直輸入」(韓国から来たばかり)の若い男が、仕事で失敗したと店で泣いているところに居合わせて、彼に同情と、おそらく魅力も感じてだろうが、いきなりキスしてしまって、このキスシーンが、けっこう長く(爆)、映画のテーマを違う方向に持っていきそうになる。

 長女真木よう子への思いが忘れられない、次女のダンナの大泉洋も、しつこい。キスシーンこそないが、しつように求愛し、二人で北朝鮮へ「帰る」ことになる。次女は次女で、その韓国の若い男とくっついて韓国へ行くことになる。

「醤油屋のサトウさん(このあたり、舞台ではシャレが効いて笑いがとれたのだろうが)から買った土地だったはずが、国に返還を求められ、夫婦も家財道具をリヤカーに積んで、日本のどこかへ引っ越していく。家族みんながそれぞれ抱擁(この動作にも、欧米の習慣を思わせるような違和感を禁じ得なかったが)を交わしあい、ちりぢりになっていく。

「ちりじりになってもおれたちは家族だ」てなことを、一家の父親が言い、残された夫婦は、桜が落ちてくるのを鑑賞しながら(爆)、「さあ行きましょうか」てなことを言う。『桜の園』のラネーフスカヤ夫人か(爆)。

 はいはいはい……さぞかし舞台ではカンドー的だったんでしょーねー。なんか、『万引き家族』を酷評してしまった私であるが、この映画を観ると、いかに『万引き家族』がこなれていたかがわかる。

 あ、そうそう。本レビューの題名は、「根岸季衣贊江」であった。ほんのちょっとだけ、ハデな着物を着た厚化粧のオバチャンが日傘に身を隠しながら、このホルモン屋を見に来る。それは、三女が不倫しているキャバレーの司会者の妻で、キャバレーの歌手だった。ほんのちょっとだけ、「まっかにも〜えた〜♪」と歌うシーンあり。この女に関して、もっとおもしろいエピソードがあるのだろうかと期待したが、それだけだった。しかしこの根岸季衣の存在だけが、本作には決定的に欠けている、つかこうへいの根性を思い出せてくれた(合掌)。

 

 


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