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『ウインド・リバー』──見落とされてきたクライムサスペンス(★★★★★) [映画レビュー]

『ウインド・リバー』(テイラー・シェリダン監督、2017年、原題『WIND RIVER』)


 


 なにもかもが新しいサスペンスである。これまで故意にも無意識にも見落とされてきた場所、人々、テーマなどを取り上げ、見落とされてきた視点から描いている。殺人事件だが、展開が、ありがちなストーリーとは微妙にズレて、そのズレが、問題点を浮かび上がらせていく──。


 


 舞台は雪深いワイオミング州の、ネイティブアメリカン保留地。ワイオミング州といえば、アメリカ大陸のど真ん中よりやや西に位置する。かつては、「ララミー牧場」で知られた場所だ。人口密度が異常に低い、野生動物も「共存」しているようなところである。羊飼いが重要な「産業」でもある。


 


 主人公ジェレミー・レナーは、その羊を襲う野生動物、狼やピューマのハンターをしている。あるとき、雪深い場所で、血痕を見つけ、それが知り合いの娘の遺体へと結びつく。なぜ、こんなところに? いちばん近い現地労働者の仮住まいの場所より10キロ離れている。こんな場所に、裸足で、ほぼ凍結状態で見つかった遺体。彼女はそこから走ってきたようである。マイナス30度のなかを全力疾走すれば、冷気が肺に入り込み、肺から出血してすぐに死ぬ。けれど娘はそれでも10キロ走ったのである──。


 


 捜査にやってきたのは、「若い娘」のFBIの新人捜査官ひとり。お上も、こんな土地の事件など、新人ひとりでやっつければいいと考えたのだろう。しかしいくら訓練を受けた捜査官とはいえ、こんな雪深い場所ではなにをどうしたらいいのかわからない。それで、現地に詳しく雪深い場所にも慣れている、第一発見者のハンター、レナーの助けを借りて捜査を始める。


 この地は、ネイティブアメリカンが追いやられた土地で、ネイティブの保安官、ワイオミングの州警察など管轄地域が微妙に重なりあい、捜査員同士も反発し合い銃を向け合う始末である。そこを、若い女のFBI捜査官、エリザベス・オルセンが仕切るのである。そのあたりは、訓練された根性を見せる。


 


 結果を言ってしまえば、流れ者の作業員を恋人に持った、ネイティブの18歳の少女が、その作業所で恋人といちゃついていたところを、ほかの作業員に踏み込まれ、男は死ぬまで殴打、少女はレイプされ、少女は瀕死の恋人に逃げるように言われ、そこから雪原を懸命に逃げたのだった。ゆえに、直接の死因は、マイナス30度を全力疾走したことによる肺の破壊だった(誰も追いかけて来ないわけである)。これを、「殺人事件」として立証するのがまた困難である。


 つまりは、ネイティブアメリカンの女性の、基本的人権の保護されなさである。実はハンターのレナーも、この少女と友だちだった娘を、家からはるか離れた雪原で失っており、その「原因」は映画では明示されなかったものの、同様の事情を思わせる。


 


 監督は、『ボーダーライン』で、メキシコ国境のボーダーラインを調査に来た、やはり若い女性の軍人、エミリー・ブラントの困難と根性を描いた脚本を書いた、テイラー・シェリダンで、本作でも脚本も担当している。社会的な弱者に弱者を重ね、その弱者が葛藤を通して成長していく物語は、事件の悲惨さもさることながら、雪のようなカタルシスをもたらす。中年の父親となったジェレミー・レナーの寡黙なハンターの演技が温かさと安心感をもたらす。



 


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