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『マイル22』──スパイ映画のバージョンは完全に変わった(★★★★★) [映画レビュー]

『マイル22 』(ピーター・バーグ監督、2018年、原題『MILE 22』)

 

 スパイ映画というのは、米ソの冷戦時代に、イアン・フレミングなどが、情報に通じた作家として描いたのが黎明期であり、ある意味頂点であった。その後、米ソの対立は、東西の壁の崩壊と、「ソ連」内部の政治体制によって、「敵」としての「国家」の存在が説得力をなくしていった。そしてインターネットによる情報の秩序の混乱により拍車がかかり……それでもなお、「米ソ」に戻って来た(笑)……というか、ソ連はロシアになっていたのだけど。というのも、先のトランプ政権誕生の裏で、「大活躍」のロシアであったからだ。世界の覇権争いには、いまや、中国というパラメータが介在しているが──。

 そんな中で、スパイ小説の作者はもっぱらイギリス人というのがあった。おっと、MI6とKGBの戦いの歴史もあった。まあ、なんでもいいが、そういう図式は終わってしまった。しかし、ひところのスパイ映画の「敵役」は、民間人のワルモノ、というのも、なんとなくリアリティがなかった。それでやはり、ロシア対アメリカに戻るが、それは、国家対国家というより、情報機関対情報機関である。そこには、個人の思惑が結構入り込んで、その「テクニック」も複雑になっている。

 いまや、ICチップを注射した特殊部隊(一人一人の、顔写真、心拍数、体温などデータが本部の画面に映し出される)が、衛生から受け取り分析される画像の、「本部」からの指示によって「神の視線」を獲得しながら、敵と戦うことができるが、それでもなかなか思うようにはいかない。精鋭部隊が守るのは、東南アジアで亡命希望している男で、その男は、行方不明になったセシウムの在処を知っている。それが敵に渡れば、何十万人の命を奪うことができる。その男の命を狙って、さまざまな敵が現れる。マーク・ウォールバーグの仕事は、それらの敵をかわしながら、男を、合衆国の飛行機が出る空港まで送ることである。ウォールバーグが優秀な軍人出身で、それゆえ、トラウマを抱え、彼のトラウマは、痛み中毒というもので、腕にはめたゴムバンドをパチンとやってその痛さを、まるで麻薬のように味わう。ロマンスも、ラブシーンもなく。あるのは、男女の別ない苛酷な戦闘のみである。それでも、画面は美しく眼を奪われる。コンピューターが描き出す、戦闘のリアルな動きは、図式化され、繊細な絵のように美しい。それらをもとに、「司令室」は、ジョン・マルコヴィッチのリーダーのもと、「次の一手」を指示していく。指示はされても、瞬時に判断して動くのは戦闘員である。そして、ときおり映し出される、ロシア情報部の幹部たちの姿──。その男の外形は、たしかに、東南アジア系のように見えるのだが──。

 私は、本作を観て、アンジェリーナ・ジョリーの『ソルト』を思い出した。CIA部員が、幼少時から育てられたロシアのスパイだとしたら……? 本作は、二重スパイの映画ではなく、「三重スパイ」……と、マルコヴィッチは死ぬ間際につぶやく。

 ウォールバーグは、またして実直に、複雑なスパイ合戦のなかで精一杯戦う、そのニュートラルな表情が、どんな匂いもさせずに、新しい時代のスパイ映画を演じきっている。

 

 


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