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『新聞記者』──安倍という言葉を出さなければ絵に描いた餅(★★★) [映画レビュー]

『新聞記者』 ( 藤井道人監督、2019年)

 

 すでにマスコミで報道された、国民の誰もが知っている「スキャンダル」に想像を加え、官僚の世界を描きながら、暗にその陰には政府があり、それは「上」という言葉で表現されているのみである。

 題名通り、新聞記者の仕事を描いているが、その現場の様子は、紋切り型である。だいたい、新聞記者なんて、新聞社の社員にすぎないのだから、いくら正義感を持っても、できることなどかぎられている。ま、日本のジャーナリズム界ではね。イギリスのジャーナリズム界は、もっと力を持っていて、プーチンの野望を追い、すべて実名で、本を出した、特ダネをよく出している「ガーディアン紙」のモスクワ支局長がいる。

 そう、もし少しでも、現政府なりを告発したいという目的があるなら、フィクショナルな状況、役名を使っても意味がない。すべて実名でなければ。そのとき、作り手の気概も、安倍政権の反応も、少しは見えるのではないか。

 アメリカ映画ではすでにそれはあたりまえのお約束になっているので、トランプ告発でも、ニクソンでも、それから、最近の、サダム・フセインのイランが大量破壊兵器を持っているという「ねつ造事件」を題材にし、「大手」ではない新聞社の新聞記者がそれを暴いた映画でも、すべて「実名」であり、起こったできごとは、「勝手に変えられていない」。それは、このテの、映画、小説の、たとえエンターテインメントとはいえ、お約束である。それを、井上靖ははずしてしまった。それを、大岡昇平は告発している。それと同様に、本作も、「政権の悪」を描きながら、「似たような事件」に尾ひれをつけてしまって、文字通り、ミソクソにしている。これではダメだ。スピルバーグのような超一流と比べると、エンターテインメントとしても、かなりレベルが落ちる(ペンタゴンペーパーという事実は変えず、人物の造詣と構成で、エンタメを形づくっている)。当然、安倍政権は痛くも痒くもない。

 だた、評価できるのは、主役の女性新聞記者を、韓国女優のシム・ウンギョンにしたことで、彼女の持ち味の生硬さが、新聞記者という仕事のリアルさを表現し得ている。日本人俳優とは、演技の質がまるでちがう。それから、松坂桃李以外は、ほとんど顔が知られていない俳優を使い(海外では、国内ではおなじみの俳優も知られていないと思うが(笑))、淡いブルーグレイを基調とした「背景」とともに、ストイックな雰囲気が出て、やはりリアルさを出すのに成功している。それで多くの観客が騙されてしまったのか(笑)?

 さらに言えば、映画で、「新しい情報」を出さなければ、学芸会の域を超えるのは難しい。


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omachi

お腹がくちくなったら、眠り薬にどうぞ。
歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)

読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。
by omachi (2019-07-24 01:15) 

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