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【詩】「顔」 [詩]

「顔」

 

近頃、私は自分の顔を、鏡でじっくり見なくなった。それは、老いていく自分の顔が見るに耐えなくなったからだ。左眼の下のまつげが、左端からだんだんなくなっていっている。やがて半分に達するかもしれない。どのような原因かわからないが、いずれ老化の一種だろう。皮膚の下には脂肪がたまり、自らの重力に抗しきれなくなって、貌のラインをゆっくりと崩していく。表面には染みが各所に点在するのがあたりまえの風景になっている。これは、たぶん、どの人にも同様に訪れる老化であり、それは何万円ものクリームでも解消はしないものと思われる。しずかに、それを受け入れるしかない。こういった状態から逃れようと、そこにメスを入れて、切り刻んでしまうとはなんたることだろう。遠目には、西洋風になっている眼などをした老女をソーシャルネットワークで見かけることが多くなったが、なんたる悲惨。金がありあまっているのだろうか? 誰も言わないが、それはひとめでわかる。専門家に言わせると、顔の筋肉はまだその全体を解明できていないそうである。大腿四頭筋とかハムストリングスとか、脚などの部位でははっきりしているものが、顔でははっきりしていない。ゆえに、顔は複雑なニュアンスの表情を作ることができる。それを、外科的にいじくって、生まれついての眼より大き眼の眼、自然の重力に逆らった部分的引き上げを行って、それで「美しく若返った」と思い込んでか、写真のアップまでして、ひとの賞賛を待ち望み、賞賛するとその気になっている老女は、気が狂っているとしか思えない。しかしそういう人々が、ごくあたりまえにふるまっているのが、ソーシャルネットワークの世界だ。なんたる荒廃。なんたる倒錯。それでは、永遠の美女のみなさん、ジジイたちのお相手をよろしく頼みます。私は、木のように枯れていけたらと思います。

 


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