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『新潮』(2018.4)──「あげ底作家」タカハシは、いまさら、どんなヒロヒトを描こうというのか?(★★) [Book]

 


『新潮』(2018.4)


 


 今号の目玉は、高橋源一郎の新連載「ヒロヒト」。


 冒頭の、藤井貞和の詩八行の引用から、『昭和天皇実録・第五』からの引用ぶん含めて、四百字詰め原稿用紙換算約五枚ぶん(原稿の全体は推定五十枚)、すべて引用。宮内庁編纂の『昭和天皇実録』について、「ここには実際何が起こったのかは書かれていない。あるいは、巧妙に削除・消去されている。あらゆる『公』の文が持つ宿命である」などと、まことしやかに書いている。宮内庁が編纂したものなど、いくら「実録」とはいえ、皇室に不都合なことなど書いてあるはずがない。いかにも反権力のふりをして、この「文学界ゴロ」、「あげ底作家」は書き始めるのであるが、すでに、2001年にピュリッツァー賞を受賞した、ハーバート・ビックス『昭和天皇(原題、HIROHITO And The Making of Modern Japan)』のなかで、アジア太平洋戦争へ、侵略への意志を持ち、北朝鮮のキムジョンウンのようなワル目立ちはまったくしないながら、むしろ、寡黙を押し通しつつ、そのジョンウンと同じように、専制君主となるべく教育され、「昭和天皇が統治した大アジア帝国の歳月は短かったが、その潜在力は巨大だった。彼はその膨張を主導し、(一九四五年以後政府が発表した公式推計で)二〇〇〇万人に近いアジア人、三一〇万人の日本人、六万人以上の連合国の人命を奪った戦争に国を導」き、かつ「戦争と降伏の遅延をもたらした」(ビックス『昭和天皇』)と指摘されている、昭和天皇=Hirohitoの、たとえ、生物学、民族学者、「南方熊楠の講義を三十分受けた」と記録されているとしても、彼のどんな「一面」を描こうというのだろう?


 以下、高橋の「ヒロヒト」は、どこかの資料から知ったのか、今度は引用ではなく、上記の、『実録』にある時間前後を、「再現」していく。その「歴史」とも「文学」とも、どちらとも取れない描写の想像力は、陳腐である。クマグス(熊楠)との、「実際はあり得なかった」会話も、以前のあげ底作品『恋する原発』の、作者と思しき父親と、息子の会話を彷彿とさせ、この人は、どんな会話を描いても、同じ調子になってしまうのだなという印象しかない。それは、『実録』が示す、昭和四年、1929年で、ヒロヒト(昭和天皇)二十八歳、クマグス(熊楠)六十二歳の時である。この後、昭和天皇は、アジア太平洋戦争へと突き進み、クマグス(熊楠)はその年、七十四歳で没する。


 小説はたらたら、たらたらと、ヒロヒトとクマグスの「交流」を描いているが、すでにして、「上げ底」の姿が見え、いったいなにが言いたいのか(笑)? 


 それより、関心を示すべきは、昭和天皇が、十一歳から書いていたとされる日記である。これは、いまだ、門外不出になっているようだ。お役所が編纂した『実録』などどうだっていい。これが見たいと思いませんか? あるいは、これをこそ、作家の想像力で「再現」すべきと思いませんか?


 今どき、文芸誌などまともな読者は買わず、宮内庁編纂の『実録』はおろか、ビックスの『昭和天皇』なども、誰も読んでないと思っているのか。作者や『新潮』編集部員すら、おそらく読んではいまい。読者をナメきったものだが、その読者も、物好きな私以外はいないと思われるので、ま、いっかーである(爆)。


 


 目玉二番手? 「新発掘」の川端康成と坂口安吾の「掌編」。このような作者の「掌編」が発掘されても、なんらこれらの作家の価値に変化を与えるものとも思えないし、それ以上に、関心を持つ読者もいないと思う。


 


 同じく二番手と思われる、保坂和志の短編「ハレルヤ」(推定五十八枚程度)。


 このヒトは、「師」の小島信夫と同様のスタイルをとって、日常の些事をだらだら、だらだら書いていくが、しかしそれが意味があるのは、その些事を見つめることによって、哲学的な思念がなされなければならないが、このヒトのバヤイ、つきあって読んでいくと、ただの些事のままで終わって、「え?」となる(笑)。このヒトの頭のなかを占めているのは、この小説(?)の書かれた時点なら、引っ越し先の家を、数百万年安く買えたらなー、である。そして、テーマは、愛猫「花ちゃん」で、この猫は、生まれたての頃、片目の見えない状態で拾われ、十八年と何ヶ月か生きて死んだ。「猫には一匹一匹、神さまがついている」というのが、作者夫妻の思いであるが、それなら、なぜ、年間何万匹、何十万匹の殺処分が行われるのか? これらの猫たちの神さまはどうなっているのか? 作者は、そんなことにはまったく思い至らず、ただただ、自分が保護し、育てた猫「花ちゃん」だけが問題なのである。ああ、そうですか(笑)。


 


 あと「埋めグサ対談三つ」、そのどれも、メンバーにまったく興味なしでスルー。おわり。表紙がピンクだったんで、買ってしまったんだなー(笑)。


 


 


 


 


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