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『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 』──志の高さとエンタメ性をみごとに両立(★★★★★) [映画レビュー]

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(スティーヴン・スピルバーグ監督、2017年、原題『THE POST』

 

 大統領制のアメリカは、議院内閣制の日本と違って、行政府の長が、多数党から選出されるということはない。大統領は別個に選ばれる。しかも、大統領には、立法権も宣戦布告権も、法案提出権もない。三権分立が文字通り機能している国である。議会が力が持っていて、すべては議会の動きにあり、それを知るためには、業界紙を読むことが必須で、それらの業界紙は、ホワイトハウス付近の議員会館やレストランなどに置いてあるフリーペーパーである。

 

 本編の題名ともなっている、The Post(ワシントン・ポストの通称)は、業界紙ではないが、当然、地方(この場合は、ワシントンDC)の政治などを中心に扱っている有力紙である(アメリカには、日本のような全国紙はなくて、すべて地方紙である。ポストの社主役のメリル・ストリープは、Local Paperとという言葉を何度も口にする)。その新聞が、ペンタゴンの極秘文書を(重要部分を)全文掲載する──。その一部は、ニューヨークの有力紙、Times(ニューヨークタイムズ)によってスッパ抜かれていた。しかし、それは、一部にすぎなかった。「ポスト」の野心的な編集主幹であるトム・ハンクスは、「全文」入手を狙って動き出す。それは当然インサイダーである。これは告発せねばと考えた内部者によってメディアの手に渡される。映画は、そこを詳細に描いている。さすがスピルバーグである。クサい人間ドラマにはせず、極秘文書の量、メディアに渡るまで、渡ってから、そして、メディアの商品としてのディレンマ(時は、ポストがニューヨーク証券取引所へ上場されるところである)を、経営者の役員たちと、メリルのやりとりで描き出す。メリルは、祖父、夫から引き継いだ、「気弱な女性経営者」で、経験豊かな役員の古株連に支えられている。そこを、「ペンタゴン・ペーパー(国防総省極秘文書)」の掲載決断を境に、気骨のある新聞人へと変貌していくまでが描き出される。

 

 のちに、ウォーターゲート事件(民主党が事務所として借りていた、ウォーターゲート・ビル6階への盗聴で、ニクソン大統領再選委員会の仕業であったことが判明、やがては、弾劾裁判への動きに抗しきれなくなったニクソンは、アメリカ大統領史上初めて、任期途中で辞任に追い込まれる。リーアム・ニーソン主演の『シークレットマン』はこの事情を描いている)へ道を開く発端ともなる、そこも、ちゃんとエンディングで示し(ビルの地階の入り口にガムテープが貼られ、警備員が剥がすとまた張り直されていた。不審者の侵入を疑った警備員が警察に通報する)その発覚発端部分を、ちゃんと映像化し、芸の細かさを見せ、最後の最後まで、志の高さで突っ走る。

 

 「ペンタゴン・ペーパー」の内容とは、つまり、ベトナム戦争がどの程度勝ち目があるかを調査した記録で、これは、戦地に何度も足を運んだ(この部分から映画は始まる)マクナマラ国防長官が調べさせ記録させた文書である。それによれば、まったく勝ち目がないのにもかかわらず、無駄な命を大量に失わせたいたという事実である。こうした記録も、きとんと残されていればこその「すっぱ抜き」であって、日本のように「改竄」もしくは、初めからそういう視点はないというのとでは、民主主義の本質がまったく違ってくる。ちなみに、日本もアジア太平洋戦争において、勝ち目がまったくないにも関わらず戦争を続行したことは、ビックス『昭和天皇』に描かれている。それも、昭和天皇その人の意志であったとする。こちらは、「極秘文書」は存在しないので、地味に資料を集めて検証した。

 

 本編はそうした、普通のエンターテインメント映画では、いや、真面目な映画でも描けない微妙な部分を描き、かつ、最高のエンターテインメントに仕立てている。かなり地味な過程なので、メリル・ストリープ、トム・ハンクスという、アメリカでも最高の、しかもクリーンなイメージの俳優が必要だった。観客は、そこのところをどの程度理解できるかが試される。ただ、アメリカでは上記のような事情は、知識人なら常識だと思うので、エンターテインメント性を十分楽しめると思うが、日本の場合、ただのごちゃごちゃにしか見えないかもしれない(笑)。





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