SSブログ

『ゲティ家の身代金 』──「カンヌ」なんてカンケーねえな(★★★★★) [映画レビュー]

『ゲティ家の身代金』(リドリー・スコット監督、2017年、原題『ALL THE MONEY IN THE WORLD』)

 

 1973年に起こった、大富豪の孫の誘拐事件がもとになっている。1973年といえば、オイルショックの年である。日本では街中の灯りが消え、トイレットペーパーなどを買い漁る人々で、スーパーもなにやら物々しい雰囲気に包まれていた時代である。おそらくそれは、世界的な傾向だったのではないだろうか。そんななかで、大富豪の孫が誘拐された……といっても、私も(若かったけど(爆))関心を持った記憶さえなく、今の今まで、そんなことを誰かが書いていたことも見たことがない。つまりは、世の中自分のことでせいいっぱいの庶民がいて、大富豪がどうしたなんて、まったく関係ない世界だったに違いない。今でこそ、ビル・ゲイツがどうの、アマゾンのベソスがどうのなどというけれど(笑)。

 本作は、そんな時代に起こった、結果は、人質は生きてかえったけれど、どうも後味の悪さを、一般庶民につきつけてくる映画である。この誘拐事件も、孫の祖父の、ジャン・ポール・ゲティが、とんでもなく金持ちだったことで起こった。しかも、その財の基礎となるのは、石油だった。まあ、簡単に言ってしまえば、湾岸諸国の石油に、いち早く目をつけ、自分のものにしてしまったのである(今は、湾岸諸国も「目覚め」、それなりに富を得ているのは周知のことであるが)。だから、どれだけ金持ちかは想像がつくだろう。われわれがトイレットペーパーの入手に先行きの不安を感じていた時に、このジジイは、石油価格の変動を毎日、豪邸で見るのを日課としていたのである。本作はこのジジイの、Facebookのマーク・ザッカーバーグもびっくりの「ごうつくばり」、「守銭奴」ぶりを、これでもかと描き出している。なんせ、孫を愛していながら、身代金は払わん、のち、払ってもいいが、「ローンにする」と言い出すとか(爆)。

 

 誘拐ビジネスは、犯罪では最も割に合わない犯罪であることを、これからやってみようと思う面々もアタマにいれておいた方がいい(笑)。富豪の息子と結婚した女を、ミシェル・ウィリアムズが演じている。この息子は、富豪であることの恩恵はまったく受けず、ダメなところだけ享受して身を持ち崩し、彼女の前から消えていった。映画は、強突張りジジイ V.S. 元ヨメの、「頭脳合戦」を、ていねいに描いている。とくに、まだ37歳ぐらいのミシェルが、15〜6歳の息子を誘拐されて、戦い抜く姿を、表情、態度などで、目をそらすことができないほど迫真の演技力で演じている。すごい。この演技には、老練プラマー爺さんも脱帽であったろう。この配役、プラマー爺さんの前には、ケヴィン・スペーシーがあてられていて、セクハラスキャンダルで、完成直前で降板となったというが、どっちのジジイでもOKの演技力なのである、ミシェル・ウィリアムズは。

 

 一家は富豪なので、美術品収集などもからんで、ローマに住んでいた──。それも、この映画の「美」なのである。いかにもありそうなイタリア犯罪者集団(失礼!)。もうここでは警察さえも信じられない。古代と70年代がクロスオーバーする。そういう光と陰も丹念に映像化されている。もう、「カンヌ」なんて、カンケーねえな(爆)。

 


nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:映画

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。