【詩】「氷雨」 [詩]
「氷雨」
きえわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしのもりの白露
建仁元年七月、1201年、藤原定家38歳、『新古今』所収。
安東次男は、集英社版の『芭蕉七部集評釈』と『続芭蕉七部集評釈』を絶版として、ちくま学芸文庫の『完本風狂始末』を正式な、芭蕉七部集を「評釈した」著書とした、そうだ。それはなぜなのか、ぼんやり考えた。そして上記の書物に当たってみた。集英社版の二書は、ちくま学芸文庫版の『完本風狂始末』とはまったく違う内容である。前者は、七部集の歌仙の巻かれたへの道程を綿密に辿り、それまでの人事や心理を考証する。それは、著者から見たら、歌の実力をめぐる連中たちのバトルである。一方、『完本風狂始末』は、文献を駆使しての連歌論である。資料は、岩波新日本古典文学大系の『芭蕉七部集』と重なる。1990年刊のそれは、1973年、1978年、それぞれ刊と、2005年刊の間にある。
笠は長途の雨にほころび、紙衣(かみこ)はとまりとまりのあらしにもめたり。
狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉 芭蕉
たそやとばしるかさの山茶花(さんざくわ) 野水
有明の主水(もんど)に酒屋つくらせて 荷兮
冷たい雨に紙の衣はびたびたになって破れている。主水という名の星。
外は冬の雨。帰りたくない。