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『運び屋』──イーストウッドがつける人生のオトシマエ(★★★★★) [映画レビュー]

『運び屋 』(クリント・イーストウッド監督、2018年、原題『THE MULE』)

 

「100歳まで生きたいなんて、99歳の老人しか思わない」なんてセリフが生きる、老人映画。超高齢化社会のヒーローとして、ご老体が登場しだして久しい。いろいろかっこいい老人が登場したが、極めつけはこの人。リアルに人生のオトシマエのつけ方を示す。それは、終盤の、逮捕されたあとの裁判に表れる。いくら90歳とはいえ、法を犯したことには間違いはない。しかし、朝鮮戦争で活躍した退役軍人であり、前科もない。女性弁護士は、情状酌量を求めて熱弁をふるい始める──と、そこへ、「ギルティ!」と、被告の爺さんが自ら言う。裁判長は、「被告本人が言うならどうぞ」ということで、イーストウッドは立ち上がり、自らの罪を「有罪」と下す。そして逮捕、刑務所へ。ということになる。娘と孫娘は驚く(元妻は少し前に彼を許し、かつ会いに来てくれたことに満足して死んでいた。逮捕のきっかけとなったFBIの麻薬捜査官、ブラッドリー・クーパーも驚く。そして──。

 老人は刑務所の花壇で、デイリリー(鬼百合のように見える華麗な百合)を作っている。その花こそ、冒頭に登場し、主人公のアール老人が、人生をかけた花であった。この花の栽培で成功し、夢中になり、家族をかえりみず、好き勝手やって生きてきた……。一人娘は12年半も彼と口をきいていなかった。事業も傾いていた。そんな彼が、90歳になって、ひょんなことから、麻薬を運ぶことになった。最初は知らずに。それが大金になって、家族の幸福にも役に立ったし、家も手放すにすんだ。しかし、それは、存外大きな犯罪へとなっていった。なにしろ、運んだ麻薬の量がハンパではなかったのである。そんなアールにいろいろな人間が絡んでくる。アンディ・ガルシア分する麻薬王、彼の手下たち、捜査官のブラッドリー・クーパー、元妻のダイアン・ウイースト、超豪華キャストである。しかし彼らが示すのは、さりげないやさしさである。決して大上段に構えた映画ではない。しかし、老人が自らを「ギルティ」と宣言したとき、イーストウッドは自らの人生のオトシマエをきちんとつけたように思った。泣けた。

 エンディングの音楽は、やはりイーストウッドの音楽趣味のよさをあらためて思い出させてくれた。





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