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【詩】「ユリシーズ」 [詩]

「ユリシーズ」

 

ああ、また、ユリシーズの日がやってくる。堂々とした押し出しの、バック・マリガンが、ガウンをなびかせて、彼らの下宿である塔の螺旋階段を下りてくる。朝のマイルド・ウィンドが、ふんわりと、ガウンの裾を持ち上げる。マリガンは、片手にひげ剃り道具の、カフェオレボールみたいなボールを持って、その上に、鏡と剃刀を十字形に置いて……なにやらわけのわからないラテン語を口走る。

「キンチ、上がって来い、この恐れをしらぬイエズス会士め!」そう、スティーブン・ディーダラスに向かって言う。それから先は、丸谷才一氏におまかせします。むしろ訳なんてどーだっていい、要は、19222月に、パリの、シェークスピア&カンパニーから、ジョイスの『ユリシーズ』初版本、1000部が出たということ。1000部って、少ないみたいだけど、けっこうな数じゃないか。いま、マリガンなんて名前を聞くと、丸顔童顔の女優を思い出す。そして、バック・マリガンの役にふさわしいのは、ラッセル・クロウかな、などと考える。

ホメロスの『オデュッセイア』は読み通したが、ジョイスのこれは、ついぞ読まないまま、本だけ黄色くなっていった。そして浮かぶは、テオ・アンゲロプロスの『ユリシーズの瞳』のハーヴェイ・カイテルの揺れるでかまら(パリで観たから無修正だった)。そう、最後のページだけは知っている。レオポルド・ブルームの妻の意識。Yes because he never did a thing like that before as ask to get his breakfast in bed with a couple of eggs since the City Arms hotel when...改行句読点なく46ページ続き、yes I said yes I will Yes.

 

で、終わる。彼は、これを、トリエステ、チューリッヒ、パリで、1914年から1921年までかかって書いた、と記してある。

 

「実際の」オデュッセウスは、魔女の呪いにあって、10年の間、海を漂う。神話か創作か、神話をもとにした創作か。

いずれにしろ、オデュッセウスに、「実際」は、ないだろう。

 

私のペンギン版『ユリシーズ』は、表紙を犬に食われてしまった。オデュッセウスが故郷に辿り着くと、犬だけが、彼と気づく。


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