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『読んでいない本について堂々と語る方法』──しかし本書だけは読了してしまう(苦笑)魅惑の書 [テクスト論]

 『読んでいない本について堂々と語る方法』(ピエール・バイヤール著 大浦康介訳 筑摩書房 2008年刊) 

 題名を見て、正直なハナシ、「そんな方法があれば……」と、「ワラにもすがる思いで」(笑)、本書を手に取った人も多いのではないか。なにを隠そう、私もその1人である。本の体裁を見ればわかるとおり、本書は、「実用書」ではない。れっきとしたテクスト論書である(ポストモダン系)。それも、著者の専門である、精神分析理論をもとに「論じている」。

 しかし考えてみれば、精神分析は、読書体験を論じるのに、かっこうの手法である。本書の読者は、あの、きわめてあいまいな、読書という体験を、すっきりと分析してもらえ、しかも、「そうか、これからも、しゃかりきになって読む必要はないんだ」と元気づけられる。そのうえ、矛盾するが、どんな難解な本にも挑戦してみようという勇気も与えられる。
 「読まない本について堂々と語っている」人たちの例が、巷のハウ・ツー本のような、そのへんのオジサン、オバサンではない。ポール・ヴァレリーだったり、モンテーニュだったりする。そうか、あの偉人も、そうであったか……。
 
 世のビジネス書は、速読だの多読だの、ごくろうなことである。これは、ひとえに、「読書体験」たるものの、認識が浅いからである。

 重箱型学者を嗤っているかのような胸のすくような本を書くのは、さすが、フランス人である。しかし、翻訳書であるかぎりは、どんなにすばらしい内容も、訳文ひとつでつまらなくもなる。本書がおもしろいのは、当然ながら、訳がいいからである。

 頭がよくなった(実際なっていると思う)ような気分になれて、すいすい読み進めてしまえて、これからは読んでない本についても堂々と語れる……こんな本を「誰にも教えたくない」(笑)と思うのは、どこかのレビュアーさんも書かれていたとおりである。バイヤール+大浦康介訳本は、ほかのも読んでみたくなる。



読んでいない本について堂々と語る方法

読んでいない本について堂々と語る方法

  • 作者: ピエール・バイヤール
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/11/27
  • メディア: 単行本



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