詩「鹿児島中央」 [詩]
「鹿児島中央」
さくらは、そのような名前の駅へ向かって走ります
「かごしまちうおー」という音が私の頭のなかで響く
それは、三波春夫の『俵星玄蕃』の、「めざすは、まつざか、ちうおー」という音と「完全一致」する、しかし
三波の語っている言葉を文字にすれば、「目ざすは、松坂町」、つまり、「ちうおー」と発音された言葉は、「中央」ではなく
「町」であった、つまり、
三波は、「まつざか、ち・よ・お・う」と発音し、それが、
「ちうおー」と聞こえるのだ
なぜか、三波は、俵星玄蕃が槍を取って、赤穂浪士の討ち入りの助太刀に行く場面をセリフで描出するのに、
「松坂町」の、よりにもよって、「町」の文字をいちばん強調しているのである
その理由は、それが歌へと移るセリフ部分の最後で、歌へと
繋げるため、劇的場面を盛り上げるために、この物語には
あまり意味のない、「町」という言葉を最大限に印象深くかたっている
なにも江戸時代の人形浄瑠璃の語りなどを、わざわざ「古典」から「学ば」なくても、われらが三波春夫が全部やっちまっているんである、あの
唇を噛みしめて、ぐいとエネルギーをため込んだ発声のしかたで、日本人の最大限の「劇的」を歌い込んでいく
めざすは、まつざか、ちうおー
小倉駅のホームで、「鹿児島中央」と、電光掲示板に表示されたその文字を見るたびに、三波の声がよみがえるのだ
しかし、住んでいる博多から小倉へ新幹線で行くとき、当然ながら「鹿児島中央」はない
それは「新大阪」だったりする
ところで道場で槍を教えている玄蕃は、真夜中、山鹿流の陣太鼓の音を聞いて、いざ助太刀と、長押の槍を取って雪の夜の江戸の町に飛び出す
その陣太鼓の合図は、「いちうち、にうち、さんながれ」である。
「ゆきをけたてて、さっく、さっく、さくさくさくさく──」
「昼間別れた蕎麦屋はおらぬかあ〜?」
「せんせーい!」
「おお! そばやかあ〜!」……おっと今はもう弟子の蕎麦屋ではなく、赤穂の義士、名は、羽織の襟に書かれている、杉野十平次どの。
持ち出した「武器」は、刀、槍、のほかに、げんのう、のこぎり? つまりはDIYの道具?
吉良の首「かくにん」
明け方にはすべて終わり、一向は、菩提寺である、高輪泉岳寺へ
「汽笛一声新橋を〜♪」やがて「高輪泉岳寺、四十七士の墓どころ〜」
そして「鹿児島中央」、かごしま、ちうおー!
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