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『アメリカン・ドリーマー 理想の代償 』──やっとアメリカが真実を語り始めた?(★★★★★)

『アメリカン・ドリーマー 理想の代償 』(J・C・チャンダー監督、2014年、原題『A MOST VIOLENT YEAR』


 


 およそ多くの観客の共感を呼びそうにない風貌の主人公、アベル役のオスカー・アイザック。そして同じく、あまり人気があるとは言えない女優、ジェシカ・チャスティン。この二人が夫婦で、1980年のニューヨークで石油ビジネスを始める。映し出される、ブロンクス行きの地下鉄が落書きだらけなのを見れば、いかに「危険な時代」かがわかる。大統領はレーガン。ラジオはしょっちゅう、どこそこの街角で殺人、みたいなことをしゃべっている──。


 アメリカン・ドリームなどというが、そんなものは、もしかしたら、どこにもありはしなかったのではないか? もちろん、原題はアメリカン・ドリームなどにはなんの関係もない、「A Most Violent Year」で、最も凶暴な年とでも訳せばいいのか。しかし、Mostに、不定冠詞のAが付いているから、こんな年が何度もあったのか。アベルは風貌にも似ず、高潔な起業家である。汚いやり口の横行する業界、時代、場所において、決して汚い手を使わずにビジネスを拡げようしている。そこへ、いろいろ、卑劣な妨害が入り込んでくる。画面は暗く、トーンも暗い。陰気臭い。カタルシスはない。ただただ、ニューヨークの、石油貯蔵所などの地味な場所が描かれる。銃も出てくるが威勢よくドンパチやるわけではない。『ゴッドファーザー』のように、「華麗な死体」が転がっているわけでもない。胸の空くようなどんでん返しもない。


 しかし、アベルの真摯なまなざしにしだいに引きずり込まれていく。ラテン系の男である。しかし軽いところはまったくない。警察も、検事も、正義の味方ではない。そんな時代に、どう生きるか。彼はハメられ、信用のあったはずの銀行からさえ見捨てられる。やけっぱちになって当然の状況をなんとか切り抜けようとする。経理担当の妻が隠し預金を作っていて助けられる。果たして、それを悪に染まったと言えるだろうか? 


 ジェシカ・チャスティンの役柄は、注目されていいだろう。女丸出しの恰好をしている妻であるが、ギャングの娘だったが、今は経理を担当。物憂げに計算機を、長いペンのようなもので打っている。その動作が何度も映し出される。セクシーなドレスをまとっているが、かなり実質的な映画である。


 われわれがこれまでアメリカ映画に期待してきたものは何も起こらない。それでも、確かに、これはこの時代の真実なのだろうと思わせた。


 


(写真は、2006年頃、私が行った、かなり安全になったニューヨークの、フェリーから見たマンハッタンのビル街。映画でも、こんな様子が映るが、もっと寂れた感じだった)

 

f_ferry1.jpg

 

 


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