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『ヒトラー暗殺、13分の誤算』──歴史に残るべき人物(★★★★★) [映画レビュー]

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』( オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督、2015年、原題『ELSER/13 MINUTES』)


 


 ナチスの非道を暴いた映画は数々あるが、本作は、ユダヤ人でなく、ドイツ人がヒトラーを告発する映画である。しかも、なんら組織とは関係なく、一人の個人が、ヒトラーの悪を実感し、なき者にしようと計画を立てる。この人物、ゲオルグ・エルザーは、歴史に残るべき人物である。誰の助けも借りず、ヒトラーを消そうとする。しかも狂信的な政治的人物ではない。ごく普通の家具職人である。しだいに堕ち込んでいく自分のまわりを見るにつけ、これではいけないと思っていく。なんとかしなければ──。彼には「才」があった。この才は、時代が違えば、べつの分野で生かされたかもしれない。ナチスの力が頂点である時代に、ヒトラー暗殺を計画(演台付近に爆薬をしかけるも、すんでのところで、ヒトラーは場所を移動)したが未遂に終わる。逮捕され、拷問にかけられる。秘密警察は拷問がすきである(笑)。ヒトラーの姿は遠目の演説以外出てこないが、「総統から命令」として、秘密警察の担当者に届けられる。つまり、「陰で操っている組織を探れ」。ナチスが、たった一人の庶民の男によって倒されようとするなど、あってはならないことである。


 しかし、実際は、あった。事実は、大戦終結直前まで伏せられ、男は、収容所でそれまで生かされ、密かに処刑される。


 マーク・ラファロを若くしたような風貌の、ゲオルグ役のクリスティアン・フリーデル。現代ならかなり魅力的な男を、時代の中に溶け込ませて地味に演じる。原題は、役名の『エルザー』だから、一人の英雄を描いた作品と言える。


 秘密警察内部もいろいろあって、すぐにゲオルグの勇気、知性に、これはたった一人でやったんだな、と納得する幹部もいれば、あくまで、「総統の意志」のもと、「陰で操るやつを自白させようと」拷問を繰り返すやつもいる。前者は後半、処刑される。技術者を立ち会わせて、爆弾をいかに作り、セットしたかをゲオルグに説明させるが、技術者は、ゲオルグがほんとうにその装置を一人で作ったことを証明するばかり。つまり、「裏」はいない。


 ナチスは、彼を「英雄」にしないために、生かし続け、頃合いをみて密かに葬るしかなかった──。


 ドイツは、自国民が犯した過ちを見つめ続け、それはさらに掘り下げられている。どこかの国とは大違いである。

 


 


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