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【詩】「ファウスト」その2 [詩]

「ファウスト」その2


 

足かけ60年にもわたって構想した『ファウスト』は、結局、ホメロス、ダンテ、シェークスピアのごった煮。そのすべてに対するオマージュだ。

日本語訳は、新潮文庫の高橋義孝をはじめ、2000年頃、ほぼ同時に、柴田翔訳(一巻本、講談社)、池内紀訳(二巻本、集英社)が出ている。柴田訳は、高橋訳に添っている。池内訳は、独自な言葉遣いの訳だ。ほかに、岩波文庫版もあるが、私は高橋義孝のファンなので、新潮社文庫を取った。ほかに、ドイツ語と英訳の対訳版を参照している。しかしこの版は、途中(ヘレネーの挿話など)が省略されている。

はてさて、ゲーテという「詩人」は、なにを考えていたのか。

「ファウスト」はもともと、十六世紀後半のドイツで、ドクター・ファスウトという人に関する伝説が巷に拡がったものである。

なんでこんな伝説ができたのか? 知的好奇心旺盛で、いろいろなものを探求していた人である。

尾ひれが付き、伝説はイギリスへ渡ってマーロウが戯曲化した。シェークスピアは書いてないが、『マクベス』『テンペスト』などにそれらしい雰囲気が残る──いや、これは、むしろ逆で、ゲーテの「ファウスト」がそれらを取り込んだに違いない。

ゲーテは、この劇のなかで、いろいろなものにしゃべらせる。なんでも口をきくのである。たとえばこんなふうに──。

 

ネット   おれはもともとアメリカの軍事目的で開発されたんだ。「アルパネット」と言ってな。


グーグル   やたらとおれを「現代」の題材と考えるが、おれの前には、「検索」は「あらかじめ自ら登録したもの」しか表示されなかったんだ。「エキサイト」とか、いろいろな検索エンジンがあったがな。そのエンジンごとに、登録してまわらなければならなかったんだ。そのうち、「一発太郎」という検索エンジンができてな、そこに一括して登録すればよかったんだ。「いま」、グーグルは勝手に情報を拾うが、それもプログラミングで操作されてるな。


ネット   ネットのない18世紀に、ゲーテは、きわめてネット的かつグーグル的な劇を書いたんだ。


グーグル    ほんま、こいつのアタマどーなってんねん。


2ちゃん   おれも18世紀に生まれれば天才。


ネット   でもさ、なんで「天使」なの?


グーグル   その前に、「悪魔」だろ?


ネット   反キリスト思想だな、ゲーテって。


グーグル   それを言うなら、反プロテスタントだろ。


2ちゃん   どーかな? 世界一の美女、ヘレネとヤッて、子どもをもうけるなんて妄想じたいが、変態ちゃう?



天使ガブリエル    るーるーるー。あなたが抱いてるヘレネは骸骨、何千年も前に死んだ女。女であることさえ、人間であることさえ、骸骨であることさえ、わからない。


メフィストフェレス    うるさいナ、おまえは、処女の芋娘相手に、「受胎告知」をしてろって。


天使ガブリエル    るーるーるー。それは、「外伝」にあるエピソード。ムハンマドは、年上女房〜。


メフィストフェレス    どーゆーカンケイがあるんだ?


天使ガブリエル    カンケイあるでしょ。


メフィストフェレス    そうかね?  ほら、リストは、おいらのワルツを作ってくれてる。


天使ガブリエル    それこそカンケイないでしょ。


 ★


あんな長い戯曲? どうやって上演するんだろ? 江戸時代の歌舞伎も、一日中やっていたというけど。

最後に、ファウストは死んでいく。こんなふうに言って。


Zum Augenblicke durft ich sagen :

Verweile doch, du bist so schon !


この瞬間に向かって、こう言ってもいいだろう:

止まってくれ、おまえは最高に美しい!


「時間よ〜、止まれ〜、ううう〜」

って、矢沢のエイチャンじゃん(笑)。


ツィッター    この場合、一般的な時間に向かって言ってるわけじゃないんです。ファウストは、「この瞬間」、つまり、死を前にした瞬間が美しいと言っているんです。そして、その瞬間を「止め」、その瞬間のなかに、永遠にとどまろうと。


(小鳥の羽音)

 


(完)


 


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