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拙訳 マルセル・プルースト『失われた時を求めて』 [文学]

拙訳 マルセル・プルースト『失われた時を求めて』

 

 「スワン家の方へ」

 

第一章「コンブレー」

 

 長い間、私は夜早くに寝ていた。ときおり、ロウソクが消えるが早いか、眼はすぐに閉じてしまって、「ぼくは寝るんだ」と思う間もないほどだった。そして、半時間もすると、眠りを迎えにいく時だという考えが私を目覚めさせた、私はまだ手にしていると思っている本を置き、明かりを消したかった、眠りながら、今読んだばかりの事柄についての考えがわき起こるのを止めることができなかった、しかしその考えは少々変わった旅路をいくのだった、私自身がその本のなかで語られたものになっているかのように思われた、教会、四重奏曲、フランソワ一世のライバル、そしてシャルル・カン。この考えは目覚めの寸前の数秒間生き延びた、それは私の理性に反しなかったがまぶたの上に鱗のように重くのしかかった。そして眼がロウソクはもう灯っていないということを理解するのを妨げた。

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