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『パトリオット・デイ』──ケヴィン・ベーコンが渋い(★★★★★) [映画レビュー]

『パトリオット・デイ』(ピーター・バーグ監督、2016年、原題『PATRIOTS DAY』)


 


 2013年のボストンマラソンの「テロ」事件は、ある意味前代未聞だった。テロというと、普通、建物や乗り物の、「密室」に近い場所が標的にされるのだが、マラソンコースという「開いた」空間が標的にされた。なるほどそこには、「群衆が集まっている」。テロの目的は、「なるべく大勢の人間を殺してアピールすること」である。その意味では、これも「アリ」のテロ対象だった──。


 開いた空間ゆえに、死傷者の数は閉鎖空間よりも多くないが、人々を恐怖に陥れたことには違いない。すでに結果はわかっている「実話」を、どのように映像化していくかが本作の焦点であるが、まず、これまでに例がない開いた空間における爆発ゆえに、すぐにテロとは決めつけない慎重な態度が、ケヴィン・ベーコン演じる、FBI特別捜査官、リック・デローリエの登場で示される。主演はマーク・ウォーターバーグ扮する、殺人課だが、やりすぎの失敗によって、懲罰として「警備」に格下げされていた、トミー・サンダース、ボストン警察巡査部長である。この役は本作のために作られた役で、よくある「熱血警官」で、彼を中心人物に据えることによって、地味に陥りがちな「実話」がドラマ性のあるものになって観客を惹きつける。


 しかし、タッチはあくまで、ドキュメンタリー風、いや、ドキュメンタリーよりも臨場感が強調されている。『ユナイテッド93』のように、犯人側もきちんと描き、それが、監視カメラやコンピューターの解析によって、特定されていくさまをていねいに描いている。何ごとが起こったかわからない爆発事件が、テロと特定された瞬間、画面が変わり、特別捜査本部が設置される。このあたりの「切り替わり」は、現実のことだが、一般民衆はそんな場面に立ち会うことはできない。しかし、本作は、そんな場面に、まるでFBIの特別捜査官になったかのように「立ち会う」ことができる。そして、知らぬあいだ、感情移入しているのは、主人公の、ほんとうは「いいやつ」のウォールバーグではなく、渋いケヴィン・ベーコンなのである。「テロと特定してしまったら、やっかいなことがいろいろ起こる」だから、慎重に捜査を進めるべきだと、ケヴィン・ベーコンのデローリエ特別捜査官は主張する。この、デビュー当時は、踊りまくっていた(笑)若者が、いつしか渋いオジサンになっていたのであるが、途中、少年愛の変態みたいなのも演じたが、今は誰よりもFBI特別捜査官が似合う、クールな俳優になっていた。彼をマークできるかどうかで本作が、「愛なんだ!」とお気軽に叫ぶ警官物語になるか、社会における「テロ」という言葉の重要性を認識する機会になるかに分かれていく。


 


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