【詩】「反源氏物語」 [詩]
「反源氏物語」
西暦にして1000年頃、ある物語が書かれたらしいが、それは残っていない。ではなぜそれがわかったかというと、ある天才理論物理学者がブラックホールの研究中、仮説として出した。周知の通り、量子力学では、すべての粒子は反粒子とペアになっている。理論上、宇宙空間は第11次元まで存在し、その物語は、「正」の世界の、余剰次元と呼ばれる次元、すなわち、第5次元以上に存在する。
書かれた物質、紙だったら灰のようなもの
筆記具、墨ならば、炭素
作者、人間の痕跡
そして何よりも、「光」は「見る」ことと同義である。光が存在しなければ、人の視覚はものを見ることはできない。
しかしそれは、可能性でしかない。アインシュタインは完全に間違っていた。
星は自らの重力で崩壊し、ブラックホールを形成し、その内部では、情報は失われる──。
太陽の熱に灼かれる反歴史
ブラックホールに消えたまま剥奪された、
欲望
は、物質ではないから「反」は存在せず、
真言密教に彩られたテクストは
全長27キロメートルの大型ハドロン衝突型加速器のなかで、
一瞬だけ浮かび上がる
すなわち、ひとの脂がわずかに付着した反桜の花びら
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