SSブログ

最果タヒ『愛の縫い目はここ』──読者は最果タヒの顔を永遠に見ることはできない、女神を顔を見ることができないように。(★★★★★) [Book]

『愛の縫い目はここ』(最果タヒ著、 2017年7月27日、リトル・モア刊)

 

 ここには、固有名詞はほんの少ししかない、それはたとえば、「スターバックスの詩」という詩の題名に使われている言葉だ。この短い詩の、〈初出〉は、『SPUR』2017年3月号(集英社)で、私などは、原稿料はいったいいくらだったのだろう? などと「下世話」なことが気になる。この、たった8行の詩には、ほんとうは、もうひとつ、「固有名詞」が「隠されて」いて、それは、

 

 感情とはなんだ。セミの構造は折り紙に、よく似ていた。

 

 という一行にある。「折り紙」とは、Origami、スターバックスの商品のひとつで、「組み立てて」、マグカップに載せ、お湯を注ぐと簡単にレギュラーコーヒーができる。おそらく、この「折り紙」は偶然ではないと思われる。Origamiとアメリカ人が命名したこの商品名は、アメリカの小学生の、スペルコンクール、Spelling Bee を題材にとった映画でも「出題」されていた、日本人には簡単だが、アメリカ人には難しい言葉、origamiなのだ。

 

 最果タヒの詩には、難しい言葉、用語などは出てこない。小学生でも読める。そして、「愛する」とか「気持ち悪い」とか「生まれる」とか、そういう、ほとんど原初的とも思える感情しか出てこない。しかし、これは実は、チョー難解な詩群だ。なぜなら最果は、高学歴の、よくは知らないが、なにかの研究者? 博士? で、一見通俗的な感情を掬いながら、なにか、言語の向こう側にある世界を表現しようとしている。そういうエリート世界などまったく知らない、フツーのオバサンである私は、実を言えば、これらの詩群は「気持ち悪い」。まるで、地球の日本人の言葉を使用して、「宇宙人」が書いた詩のようだ。でも(最果には、接続詞はほとんどない。接続詞は、人間の気持ちを表すのに)、「読める」。本書は、最果タヒ詩集の三部作の完結編だそうで、おそらくこの後は、まったく違う詩集を提示するのではないか? 今まで書いていた対象など、置き去りにして。

 

 最果タヒの詩集は、Amazonでもベストセラーで、おまけに本書には、帯に、谷川俊太郎の、すばらしい言葉が付いていて、まさに鬼に金棒の詩集となっている。

 

 讃美するも否定するも、とにかく、いま詩を書いて発表している者は、この「門」をくぐらねばならない。そして、その際は、「あらかじめ希望を捨てよ」と申し添えておくのが、先に滅びていく人間の、残酷さによく似たほんのひとふりのやさしさなのかな。



nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。