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『ノクターナル・アニマルズ』──映画の「現代美術」(★★★★★) [映画レビュー]

『ノクターナル・アニマルズ』(トム・フォード監督、 2016年、原題『NOCTURNAL ANIMALS』)

 

普通の映画の見方で本作に立ち向かうと、なにがなんだかわからないことになってしまう。まず、トム・フォードは、普通の映画の作り方とはまったく違う方法を取っている。配役からして、「どこかおかしい」と思わなくてはいけない。若き日を演じていようが、今を演じていようが、俳優の実年齢を記入すると、ヒロインのスーザンを演じる、エイミー・アダムス43歳、元夫役、ジェイク・ギレンホールは、37歳。この二人の間には、「子どもがあったが堕胎した」とスーザンは、今の夫と知り合った頃告白しているが、現に、男といっしょに寝ている娘がいるが、この娘は、いったい誰との子どもなのだろう? そして、ハンサムな今の夫、アーミー・ハマーは、31歳なのである。実にうらやましいスーザンである。つまり、「夫たちが若い」。エイミーのブルジョワの母親役は、気の毒にも、53歳のローラ・リニー。ここで、なにかヘンと思わなくてはいけない。

 これは、もしかしたら、すべてスーザンの幻想かもしれない。しかし、まあ、前夫が小説のナマ原稿を送ってきたのは現実だとしよう。前夫は、弱さが欠点で、大した作品も書けてなかった。一方、スーザンは、現代美術のギャラリー・オーナー=キュレーターとして成功している。ここがポイントである。現代美術の世界である。だから、オープニングのフルチン・デブ・オバチャンの狂い踊りは、インスタレーションなのである。現代美術はこんなところまで行ってしまっている。

 つまり、これは、ある意味、最先端の映画。スーザンと前夫の才能合戦で、完敗した前夫の、まあ、リベンジ(だから、二重の意味)なのである。小説にのめり込み、圧倒され、前夫を自分から誘い、日本じゃとても着られない超セクシーなドレスを着て、高級レストランで待つスーザン。スコッチだかなんだか、食前酒が何杯も重なり、ほかの客たちは帰り始めても、前夫のエドワードは現れない。エドワードが勝ったのである。いい男を両天秤にかけるととんだしっぺ返しを食うという、トム・フォードの「復讐」だろうか? それにしても、男のシュミがまったく私と同じなのには、マイッタわ(爆)。だって私も、アーミー・ハマーとジェイク・ギレンホールを思い浮かべながら小説を書いていたのだ(笑)。

 観客の先入観を完全に裏切る配役のもう一人に、『フロスト×ニクソン』で、辣腕ジャーナリストのフロストや、『クイーン』では、ブレア首相を演じた、さわやか知性役の多いマイケル・シーンが、小説に書かれた人物とはいえ、とんでもないゲス野郎を演じていて、フォードのセンスはまったく現代美術である。

 クレジットでは、ゲンズブールの「ボードレール」が眼に留まったし(笑)。

 そして、前夫のエドワードは、「現在」の姿は、一度も晒さない。


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