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『ボストン ストロング〜ダメな僕だから英雄になれた〜』──ジェイク、スター性をかなぐり捨てる (★★★★★) [映画レビュー]

『ボストン ストロング〜ダメな僕だから英雄になれた〜』(デヴィッド・ゴードン・グリーン監督、 2017年、原題『STRONGER』)

 

 歌舞伎には「裏狂言」というものがある。たとえば、「四谷怪談」は、「忠臣蔵」の「裏狂言」である。「四谷怪談」の主人公、田宮伊右衛門は、塩冶の浪人、赤穂藩の武士であった。本作は、ある意味、2016年の、同じボストンマラソン・テロを扱った、『パトリオット・デイ』の「裏狂言」と言えるかもしれない。密室でない、屋外での爆発による、まれなテロである。『パトリオット・デイ』では、FBI特別捜査官の、ケヴィン・ベーコンは、テロと断定するのに、慎重になっていた。テロと発表してしまえば、政府の対応はまったく違ってくる。映画は、この犯人を追及するまでを、ボストン警察の一巡査部長(マーク・ウォールバーグ)の目を通して描いていた。

 

 本作は、そのテロ事件にたまたま遭遇した被害者が主人公。両脚を失うというひどい被害に見舞われながら、意識がやっと戻ったとき友人との筆談で、「犯人を見た」と言い、「英雄」となっていくジェフリー・ボーマンを、ジェイク・ギレンホールが演じている。この「英雄」は、不撓不屈の努力で、義肢を使って、再び立って歩けるまでになる。そういうニュース記事や映画はよくあるが、実際は並や大抵の努力ではできない。地獄のような苦しみを克服するさまは、まさに「英雄」なのであるが、その際、劇的な高揚感を排除し、普通の男が、人々に勇気を与える人間になるまでをていねいに描いている。

 

 ジェイク・ギレンホールは、スター性をかなぐり捨て、どこにでもいるちょっと軽い男が、偶然の不幸に襲いかかられ、「英雄」へと変身していく姿を、深い身体性で再現している。俳優とは、自分以外の誰かを演じてみることに関心のある人間だが、そうか、ギレンホールは、こういう人間に「なって」みたかったのかと思った。それは、彼のストイックな生活を反映しているようで、ますますすきになった(笑)。

 恋人役の女優も、化粧っ気がまったくなく、美人でもなく、ブスでもなく、アクというものがないのに、気丈さと心の優しさが出ていて、大変好感が持てた。

 


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