【詩】「愛されたもの」 [詩]
「愛されたもの」
イーヴリン・ウォーの小説に、たしか「Loved one」なる題名のものがあって、それは、「愛されたもの」と訳されているときもあれば、「囁きの霊園」と訳されているときもある。「霊園」の物語である。導入は、有閑族たちのたわいのないおしゃべりからはじまる……いつしか、でんちゃん*の今日の詩のように、霊園に入っている。そこで、働いている男。墓地ではたいてい男が働いている。女は働いていない。西洋の墓地では、たいてい年寄りの墓掘りがいて、「よいこらさ、ラムがひと瓶と」などと歌っている。昔の、秘密のハナシを知っていたりする。すでにして、ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』。アガサ・クリスティの『運命の裏木戸』は、おしまいまでいっても、結局、犯人は誰なのか? 事件はどんな事件だったのか? よくわからない。そのように、物語は会話の向こうに見え隠れし、突然終わる。果たして、ウォーのこの小説、結末にはぎょっとさせられる。ぎょっとさせられながら、笑わざるを得ない。どんなに残酷な事実にも。
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*でんちゃんー詩人細田傳造氏
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