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『十三人の刺客』──世界に出せる脱構築時代劇エンターテインメント [映画レビュー]

 紋切り型の時代劇から完全に脱し、あらたな時代劇エンターテインメント像を作り上げている。しかし、ディテールや台詞回しはむしろていねいかつ地味に積み重ねられている。

 日本映画は、『宇宙戦艦ヤマト』のような、ハリウッドSFものまねをつくっても、ちゃちさが目立つだけでとうてい及ばない。本作は、日本映画が世界に出て行くひとつの道を示したものと言える。

 『13人の刺客』というタイトルから、赤穂浪士の『47人の刺客』を思い出したが、それとはまったくべつの筋立て設定であった。こちらの方がほんとうの「刺客」であろう。江戸時代といえど、ただ漠然と描き出すのではなく、江戸末期、明治に近い時代のできごととして、まさに「ラストサムライ」たちの生き様を描いたものと言える。

 選ばれる刺客たちの、キャスティングもよい。若い、あまり顔の知られてない俳優が並び、その若さが、エネルギーとはかなさを、江戸という閉じられた時代の闇にきらめかす。主役の役所広司の人柄を感じさせるサムライもいいし、その甥の山田孝之のマイケル・ジャクソン(笑)を思わせる風貌も抜きんでている。名もない山の民でありながら、重要な役どころとなる伊勢谷友介の伸びやかな体全体を使ったパフォーマンスも魅惑的だ。また、平幹次郎、松本幸四郎、松方弘樹など、かつての時代劇のスターたちが、脇を支えるのも、本作を安定させる。

 そしてそれだけの「正義の味方」にたったひとりで対する「悪役」、稲垣吾郎は大したものだ。役が役だけに、ファンは減るかもしれないが(笑)、そういうリスクを取るのは、役者として大成への道である。

 もうひとつ、本作がただのエンターテインメントに終わらず芸術作品となり得ているのは、物語を少しズラしてみせる、脱構築である。それゆえ、「肝心なところで映画を壊している」などという、俗なドラマにとらわれた観客の感想がまま聞かれる。脱構築とは、覚めた目で物語をとらえることでもある。三池崇史は、どうもそういうものを心得た監督と見た。



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