『奇跡』──世界を選ぶことのすばらしさ [映画レビュー]
『奇跡』是枝裕和監督
是枝監督のすばらしさは、紋切り型を、徹底的に回避していくところにある。
都会から来た転校生がいじめられる……それは、数十年前の、この種の、家族とか子どもとかをテーマにした映画の紋切り型(ステレオタイプ)である。そうでなくても、きょうびの小学生は、「いじめの時代」はとうに過ぎ去って、互いに気を使い合う、まるで、おとな社会のような過ごし方をしているという。
紋切り型は、そういうイジメや、両親が別れたつらさを生き抜き、やがてはハッピーエンドとなる。あるいは、ちょっと前のハリウッド製ハートウォーミング映画なら、ほんとうに奇跡を起こしてみせる。あるいは、実存主義的映画なら、奇跡などあり得ないことを酷薄にも見せつける──。
だが、本作は、どの道をも取らない。そもそも本作は、ストーリーでなにかを語ることを目的にしていない。この映画の主題は、「自分と世界とでは世界を選べ」ということである。それがすがすがしいまでのディテールの積み重ねによって語られている。
主役の子ども二人も名演ではあるが、それらを光らせているのは、ベテラン俳優たちの、「いぶし銀の」(とあえて言ってしまうが)ような演技である。どんな脇役にも命が吹き込まれている。そして相変わらず、主役の子どもとは、つかず離れずの祖母を演じる、樹木希林がすばらしい。
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