『無言歌』──ぎりぎりの生存の美しさ [映画レビュー]
『無言歌』ワン・ビン監督(2010年)
文化大革命時代の悪が、しだいに正面切って描かれるようになっている。本作は、反右派闘争、つまり、毛沢東率いる中国共産党が、インテリや資本主義的な思想を持っている人々を、「右派」=敵として、一掃しようとした「闘争」の結果、強制収容所へ送られた人々の生、あるいは、死を、描いたものである。
彼らは甘粛省、モンゴルとの国境に拡がる砂漠地帯へと送られ、強制労働に従事させられているのであるが、食べるものもろくにない。しだいに弱って死んでいくだけであるのであるが、それでも人間として威厳を保とうとしている人々もいる……。ここには、「最低の生活」さえない。生活などという贅沢品は存在しない。あるのは、ぎりぎりの生存である。しかし拡がる空、大地の、なんと美しいことか。過酷な美しさ。美しいといっては不謹慎なのかもしれないが、せめて、死者たちの鎮魂のために、その美しさを記録したい、そのような願いが込められた映画とみた。
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