『浄瑠璃を読もう』──その前に、ドナルド・キーンを読もう [Book]
『浄瑠璃を読もう』(橋本治著、2012年7月、新潮社刊)
ドナルド・キーン氏は、近松門左衛門『国姓爺合戦』の研究論文で、コロンビア大学で博士号を取得してる、いわば、近松の大家である。氏は、題材こそ日本文学であるが、その方法論は、厳密な欧米のメソッドを基礎にしている。その氏の『日本文学史 - 近世篇二 』(中公文庫)は、信憑性のあるデータを駆使、かつ明記して、浄瑠璃の発生から、発展まで、詳述している。それを読めば、橋本治が本書で書いてる説明等は、まったくのでたらめとは言わないまでも、まあ、「テキトー」であることがわかるだろう。しかも、橋本流のパフォーマンスが付いている。江戸時代に書かれたものを無理矢理、現代に置き換えて「言い切って」しまうのも、氏の悪癖(笑)である。
確かに、着眼点は言い。しかし、これは、あくまで、橋本治の「ショー」であることを心得ておかないと、そののち大変なことになってしまう。話半分、どうぞ、ショーをお楽しみください、である。無知蒙昧の読者に向けて書いているのか、蒙が啓かれたなんて思ったら大間違いである。
なお、小谷野敦氏が、以下のようなクレームをレビューしておられる。
「「菅原」「千本桜」「忠臣蔵」の三つが、竹田出雲、並木千柳(宗輔)、三好松洛という、三人の優れた劇作家が書いた、とありますが、「菅原」は初代出雲、あと二つは、はじめ小出雲といった二代出雲でありますから、三人ではないのです。連載中から指摘していたのですが遂に直らなかったのは残念です。一般には宗輔が中心となって書いたとされます」
どうして、なにを根拠に、以上のような絶大な自信を持って断言できるのかわかりませんが、江戸後期の浄瑠璃は、長大さと複雑さを増し、共同執筆が普通のようで、上のキーン氏の著作では、
『菅原伝授手習鑑』竹田出雲、三好松洛、並木千柳、竹田小出雲(二代目出雲)
『義経千本桜』竹田出雲(二代目)、三好松洛、並木千柳(宗助)、
『仮名手本忠臣蔵』同上
としているから、ここは、橋本治の方が正しいのでしょう。間違いだと、「間違いで指摘」されても、直せないでしょう、編集部は(笑)。
江戸時代の浄瑠璃作者は、今日の単行本作者のように明確に名前が著作に印刷されているわけでなし、十返舎一九の『忠臣蔵岡目評判』などに書かれた合作者の分担などをもとに判断するほかないらしい。
芝居の世界は、さまざまな人々が入り乱れているかなり複雑な世界で、浄瑠璃を文学にしたのは、近松門左衛門だが、そののち、竹田出雲などが出て、これまた、違ったパフォーマンスにしてしまっているわけで、まあ、橋本氏のように、「明快」には語れない世界なのである。
コメント 0