即興現代詩「オレンジTシャツの女」 [詩]
即興現代詩
「オレンジTシャツの女」
その服は、オレンジという範疇なれど、苦いオレンジ、ビターなオレンジ色
なれど、ところどころ国防色に汚れている
誰かに、この女のことを話したい
かなり目立つ女だ
誰もが知っているにちがいない
しかし誰も話しかけない
地下街の、デパートへの入り口の、なんというか、通路に柵状のものがあって
ひとが腰かけてなにか食べたりできるくらいの場所があって、
そこで、そんなふうにする人はあまり行儀がいいとはいえない
いわば、あまりポピュラーでない場所
そこを通れば、かならず座っている女
通行人に背中を向けて、頭部を風呂敷状のもので覆って
その外形は、頭の丸みではなく、なにか、角隠しでも
つけているように角張っている
そして片手にうちわを持って、顔を隠しながら
なにか読んでいる
ほんとうに読んでいるのではないだろう
そうやって時間を潰している
下半身は黒いモンペ状のものを掃いている
その女は今日も、オレンジ色のTシャツだった
国防色の汚れは日に日に増えていっている
そのTシャツ一枚しかないのだろうか?
荷物のようなものを身のまわりにおいているが
着替えは入ってないのだろうか?
手は、異様に白く、炊事などの形跡はない
ホームレスというには、あまりに同じ場所におり
その場が「閉まれば」、立って、所在なげに、反対側のスーパーの入り口の壁にある、ビデオのコマーシャルを見ている
しかし、ほんとうは、何も見ておらず、ただ時間が経っていくのを
待っているのだろう
博多には、そういう女がままいると聞く
かつては娼婦だった女
あるボランティアのオバサンが何気なく話してくれた
話が耳に残っている
「親子で売られてきて」……
そのオレンジは最後に、どんな色になるのだろうか?
べつの色への変わり目は……
その服装の内部には……
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