【詩】「夢のなかでは泣いていた」と解題 [詩]
【詩】「夢のなかでは泣いていた」と解題
ここは
アテナイからはるか
数百キロの名もない沼地
夢のなかでは泣いていた
なぜというに
ひとつの隠喩が
片われのもうひとつの
言葉をさがして
はるばる旅に出ていたのだが
疲れはて
肉を切り裂くするどい葦の生い茂る水辺で
半身を泥に埋めたまま
長い眠りに入ろうとしていた
夢のなかで泣くために
*****
「解題」
ボルヘスの『詩という仕事について』という本(岩波文庫、『ボルヘス、文学を語る──詩的なるものをめぐって』という単行本の文庫化)を寝転びながら読んでいて、うつらうつらしながら、浮かんできた言葉である。本書のなかでボルヘスは、詩の一回性について語っている。つまり、詩作品は、たとえ印刷されたものでも、読むたびに違った内容のものとなる──。
それから、隠喩についても語っていて、隠喩というものは、かならず言葉が対になっている、つまり「相手」がいるということ。それらが、自分がすきで何度も読み返している、ボルヘスの短編『円環の廃虚』の世界(歴史以前の歴史の物語。「彼」が葦の茂る沼地に小舟をこぎ入れるところからはじまる)──と、一方で、「夢のなかでは泣いていた〜♪」というフレーズは私がしばしば「口ずさむ」、ある歌謡曲の断片であるが、その歌とは、ほとんど誰も覚えていないであろう、『愛はまぼろし』という歌であるが、その昔、いろいろなゲテモノ歌手が流行った時があって、そのひとつだと思うが、名前を思い出せない(うっすらと浮かんではいるのだが)男性歌手が、片手を胸の前で立て、仏教の拝むかたちを作り、片手で木魚をぽくぽくと叩きながら、よくある恋愛ものの歌謡曲を歌うのである。
そういったものが混じり合い、適当に行替えしていって、数えてみたら、ソネットになっていた。
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