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『パリ3区の遺産相続人』──ディープなパリ+ステレオタイプメロドラマ(★★) [映画レビュー]

『パリ3区の遺産相続人』(イスラエル・ホロヴィッツ監督、2014年、原題『MY OLD LADY』


 


 監督の、イスラエル・ホロヴィッツは、アメリカ人で、舞台の脚本家としてキャリアを持っている人である。『いちご白書』の脚本も書いてる。70代ながら、本編が初の長編映画である。そんな作品の舞台に選んだのは、パリのマレー地区。歴史とおしゃれなお店が混在し、最もパリらしい地区と言われる。なるほど、この作品を見ていると、どっぷりパリである。意外にも、観光や普通のパリを舞台の映画では見られない区域にまでディープに入り込んで、パリに住んでいる気分を満喫させてくれる。


 だが、どうも、この映画は「それだけ」である。物語は、いかにもありがちな、中年、というより、初老男女のロマンスへと収束していく──。


 ニューヨークから、父親がパリに持っていたいうアパルトマンを相続した、一文なしの男がやってきて、そのアパルトマンに生活している老女とその娘と、ごたごたを起こす。フランスには、Viager(ヴィアジェ)という制度があり、住んだまま建物を安く売り、買い主から終身、年金の形で、購入代金の一部を受け取ることができる。契約者の死亡によって、はじめて不動産は買い手に引き渡される。そうした法律を下敷きにして物語は進んでいくが、どうも一本調子で、最後は、その男と、老女の娘が結ばれる。めでたし、めでたし、である(笑)。


 その老女は、男の父親の愛人だったのであり、その娘は、もしかしたら、男と兄妹かもしれない……。それが唯一の「サスペンス」であるが、それも、映画では簡単な、医師から渡される一枚の医学的証明書を得て、解決される。


 主人公の男、ひさびさ、ケヴィン・クラインであるが、当時67歳で演じる57歳には、ちょい無理があり、老女、マギー・スミス、80歳なのに、92歳はちょい気の毒である。老女の娘は、55歳のクリスティン・スコット・トーマスで、まあ、ちょうどいい感じ。それに彼女は、イギリス人なれどフランスで演劇修行をし、夫もフランス人なので、話すフランス語は、ほとんどネイティブである。


 まーなんというか、「いまどき」、こういうハナシで、喜ぶ観客がいるのかね〜? である。とくに、クラインとトーマスは、舞台で鍛えた演技力を、ここぞとばかりに披露しあっているが、映画では、やや大げさになってしまう。過去の辛い経験を、言葉で語れば、そのキャラクターに深みが出ると思ったら大間違いである。


 長編初監督作品、コケ。ご愁傷様。ホロヴィッツはベケットに師事していて、終わり近くに、庭の石碑(男が父の骨を送り、おそらく老女が建てた)に刻まれた、「『あなたの愛が得られないなら、ほかの愛なんかいらない』──サミュエル・ベケット」という言葉が映し出されるシーン(ほとんど一瞬)もあるが、本作には、言葉と肉体の分離という不条理に落ち込んでいくベケットらしさは、つゆほどもなく、あまりにステレオタイプのメロドラマで、いったいベケットのどこを学んでいたのだろう? と首を傾げるしあがりとなっている。

 

****

 

 

(お写真、自分が撮影したパリであります。主人公は、このセーヌの岸辺あたりをウロチョロします)


 

IMG_1895.JPG

 

 


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