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【詩】「さつじんじんけん」 [詩]

「殺人事件」萩原朔太郎


 


とほい空でぴすとるが鳴る。


またぴすとるが鳴る。


ああ私の探偵は玻璃の衣装をきて、


こひびとの窓からしのびこむ、


床は晶玉、


ゆびとゆびとのあひだから、


まつさをの血がながれてゐる、


かなしい女の屍体のうへで、


つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。


 


しもつき上旬(はじめ)のある朝、


探偵は玻璃の衣装をきて、


街の十字巷路(よつつじ)を曲つた。


十字巷路に秋のふんすゐ、


はやひとり探偵はうれひをかんず。


 


みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、


曲者(くせもの)はいつさんにすべつてゆく。


 


******


 


「さつじんじけん」


 


うしろから突かれる


とおいさつじんじけん


を思いながら


かんびをむさぼる


人格はとうに崩壊して


自我は溶け合う


若い男の強い肉体は


果汁のように


よろこびというものを目覚めさせて


女探偵は本日休業

 

 


 


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