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『マダム・フローレンス! 夢見るふたり 』──視点人物分裂によって物語減速(★★★) [映画レビュー]

『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(スティーヴン・フリアーズ監督、2016年、原題『FLORENCE FOSTER JENKINS』)


 


 音痴というが、この種のクラシックの歌曲は、音痴かどうかよくわからない。


 


 音痴で思い出す映画は、ジュリア・ロバーツの『ベスト・フレンズ・ウェディング』(1997)で、ジュリアの男の親友の婚約者で、私はこの時初めて見た、キャメロン・ディアス演じる良家の子女が、カラオケで歌う、ド音痴の歌である。これによって、ジュリアは、嫉妬を感じていた相手に、共感を持つ。その音痴さはハンパでなかった。音痴というのは、カラオケ程度の歌にしてはじめて言えるもので、本編のようなクラシックの歌曲となると、いくら高音で、「はっはっは〜ああああ〜」とやっても、あまり笑いの対象にはならない。ゆえに、本編より先に公開された、同じ物語と思える『偉大なるマルグリット』もあまり笑えなかった。


 


 だいたい音痴という題材は、その原因が、肉体的欠陥が可能性として考えられるので、それほど笑えないのだ。まさにその通りで、本編の主役フロレンス(メリル・ストリープ)も、実は、若い時夫から移された梅毒の治療法の水銀の毒によって肉体をひどく損傷しているのであった。そういう「事実」が根底にあり、音楽への入れあげ、ヒュー・グラント扮する事実婚の夫シンクレアの献身などが派生する。


 フロレンスがいつも大事に抱えている鞄の中身は謎ということになっているが、そのうち、それは、財産目録並びに遺言書のような書類であることがわかる。となると、いくら事実婚とはいえ、夫の献身も、疑わしいものになってきて、そのあたりを映画は、かなり曖昧にしている。ほかにも曖昧にしているところはあって、事実婚の夫婦は、妻の病気(水銀中毒とその後遺症。さらに穿てば、妻の高齢)によって性生活はできないので、夫は外に、妻が認めているらしい、愛人を囲っていて、その住居費も、財産家の妻が出している。いわば公認で、そちらのおうちへ、シンクレアは、妻を寝かしつけたあと、「帰っていく」。その愛人が、レベッカ・ファーガソン演じる美女なのである。けっこー、まー、なんてよい暮らしなんでしょー、この夫は、となる(笑)。そのあたりの、シンクレアの本心も、ぼかして描かれているように見えた。確かに、音楽への思いが若き日に絶たれてしまった妻には同情し、かつ、彼女の純真さを愛してはいるだろうが。


 


 フロレンスの歌曲のピアノの伴奏者に採用されるコズメ・マクムーン役の、サイモン・ヘルバーグがいい味と、ピアノのセンスを示して、これがこの映画の魅力になっているが、実際、フロレンス、シンクレア、コズメの主要人物三者の視点が三様に分かれ、映画を中心を欠いたものにしている。これらのうち、どれか一人の視点にすべきだった。

 

 



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