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『王様のためのホログラム』──ドイツ人監督の徹底した「中東転職モノ」(★★★★★) [映画レビュー]

『王様のためのホログラム』(トム・ティクヴァ監督、2016年、原題『A HOLOGRAM FOR THE KING』)


 


まず、本作は、監督のトム・ティクヴァを知らないと、どういう映画かわからなくなって、「なんでサウジアラビアなのー?」「トム・ハンクスなんでこんな映画出たのー?」「ただのオッサンの転職ものだけじゃん」てなお寒い感想になる。ティクヴァ監督が過去にどういう作品を監督したか──。


 


 まず、根性女子が「ただ走るだけ」の映画、『ラン・ローラ・ラン』。しかし、走り抜くことによって、ついに事件を解決する。これは評判になったので、サントラも持っている。この時のローラ役の女優は、のちに、マット・デーモンの『ボーン』シリーズで、ボーンの恋人役として登場。


 


 つぎに私の大好きな映画、『ヘヴン』、それこそ重信房子のようなテロリストの女、ケイト・ブランシェットが、イタリアで爆破事件を起こし、看守のイタリア青年と恋に落ちる。そのイタリア青年は、デビュー当時の風間杜夫のように、素人っぽさを漂わせたウブそのものを演じきっている、アメリカの曲者俳優、ジョヴァンニ・リビシ。その後のリビシの出た映画を見れば、とても同じ人間とは思えない(笑)。題名からもダンテ『神曲』をもじっているのか。至上の愛を描いている。


 


 続いて『ザ・バンクス』。なにかと大味のクライブ・オーエンであるが、この映画ではかっこいい。インターポルを演じて、今はあたりまえだが、当時は「最先端の犯罪」、銀行の悪行を追う。かてて加えて、FBIだったかなー? ナオミ・ワッツ。この映画にも痺れた。


 


 そして、本作にも、ホログラムプレゼンの、「ホログラム姿」として登場している、ベン・ウィショーを世に出した、『パヒューム』。半裸のベン・ウィショーは得たいの知れないジプシー青年そのものだった。その後の、発明オタク青年「M」になるとは想像もつかない。考えてみれば、「どんな映画かわからない」映画だ(笑)。


 


 と、まあ、そういう監督が、「あえて」、今のサウジアラビアの「日常」=「現状」を、フィクション「でしか」表し得ない「事実」を提出しているのが本作である。公開処刑さえ「日常」の姿として(シーンはない)「語られる」。CGかも知れないが、「メッカ」もつぶさに写される。戦争モノ、軍事モノでは、ここまで細やかにアラブを描くことはできなかっただろう。


 


 そう、自動車会社の取締役をクビになったオッサンのトム・ハンクスが、(キャリアを生かして)再就職した会社から、サウジにホログラムを売りに飛ばされる。部下三人とともに。異文化ショックもさることながら、それどころではない「警察国家」で、職場環境を変え、現地人の友人を持ち、かなりイイセンまで改善していく。だが、結局、ホログラムは売れなかった。というのも、「もっと安い中国製」が売れてしまったから。それでも、トムは、現地で、自分の背中の脂肪腫(こういうディテールがいかにもトム・ティクバなのだ)を手術してくれた女医と親しくなる。監視国家を逆手にとった、デートがすばらしい。


 


 サウジでは、いろいろな国から働きに来ていることがよくわかり、トムはデンマーク人女性にも言い寄られる。さすが北欧の、大使館でのハチャメチャパーティーも「すっぱ抜かれる」(笑)。


 


 ドイツ人でなければできない徹底した視点の入った、「オッサンの中東転職モノ」なんです(笑)。


 


 


 


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