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『白いリボン』──思考することをうながす反エンターテインメント映画 [映画レビュー]

 『白いリボン』ミヒャエル・ハネケ監督

 

 本作の設定は、第1次世界大戦前夜のドイツのある村。

 

 eiga.comの批評氏、清藤秀人氏は、「これがヨーロッパ映画としては画期的な“ナチス台頭前夜”にフォーカスした野心作であることが解る」と書かれているが、確かにナチス党の前身であるドイツ労働者党が結成されたのは1919年であるが、それでも、第1次大戦の始まり(1914年)よりずっと後のことである。氏の言う、「ナチス台頭」とは、おそらくヒトラーが党首となり、ニュールンベルク大会を開いた(1936年)あたりをさしているのだろうが、それは、第2次世界大戦である。第2次世界大戦のきっかけは、ヒトラーがポーランドを攻撃したことによる。

 

 本作の登場人物の服装(女性は長いスカートを身にまとっている)、習慣(交通手段として馬を使ったりする、明かりは主にローソクが使われている……)などを見れば、それが少なくとも、かなり古い時代であることがわかる。第1次世界大戦が始まったのは1914年、きっかけは、オーストリアの皇太子が暗殺されたことによる。この事件は、作中でも「外部からのニュース」として、また、不穏な世界の動きを示すものとして語られている。

 

 前置きが長くなってしまった……というのも、このような、な〜んにも考えていない、映画さえろくに見ていない批評氏の解説をなにかの指標として掲げ、しかも誰も訂正しないという無思考な状況のせいだ。

 

 しかし、本作は、そういう状況とて、いつこの映画のような事態を招かないとはかぎらないぞ、と告発しているかのようである。確かに、舞台はそうした、100年近く前のヨーロッパの、ほとんど農奴制とも言える習慣が続いている田舎の一コミュニティである。そういうコミュニティではあるが、完全に外部から閉じられた状況にあると、しだいに人間はおかしなことになっていく、まっさらな心を持った人間にまず影を落とし始める、と言っているのである。そして「白いリボン」とは、なにより思考停止の象徴である。そうやって強制的に人の精神を縛る。……するとどうなるか。

 

 ハネケ監督は、芸術家であるから、賢明にも物語を古い時代にとり、これがまぎれもない真実であることを見るものに焼き付けるために、あえてモノクロを選んでいる。そうやって、エンターテインメント性を排除している。カラーにすれば、どんな問題作もエンターテインメントになってしまうだろう。

 

 謙虚に心を開いて本作を見れば、誰も思考というものをせざるを得ないだろう。

 

 (少なくとも、eiga.comの批評氏みたいにはならないはずなんですけど……???)



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