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飯田蛇笏の随筆『薄暮の貌』──日本で、「ボルヘス」であること [文学]

 Kindleにダウンロードした、飯田蛇笏のエッセイ、というより随筆を読む。この作品は、「青空文庫」である。底本は作品社の『日本の名随筆 別巻25 俳句』(1993年)であり、親本は、「土の饗宴」(小山書店、1939年)である。


 蛇笏は、横浜の、さる料亭と思しき店へ、句会にのぞむ。昭和十年代の、「暦の上では、もう初秋だと云ふものの、まだ残暑がきびしく」ちょうど今頃の時期である。料亭とはっきり書かれてはいないが、派手な化粧の使用人がいる店である。天井が低く、全体に不潔な感じで陰惨な気持ちがどうしようもない。一堂が集まっている部屋には窓があり、そこからまた、悪臭が漂っているきている。それは、不潔な庭全体に加えて、シェパードが飼われていて、その臭いである。そこから蛇笏は、


 


  秋を剃る頭髪(かみのけ)土におちにけり


 


 という句を思いつくが、それは現実の風景にはなんら関係がなく、「山寺かなにかの樹陰で、坊主頭に、髪を剃りこくつてゐる、極端に灰色の人生が思ひに浮かんだ」とある。


 それから、誰か裏で声がし、老人がやさしくシェパードに話しかけ、どうやら散歩に「出した」らしい。この時代なので、リードをつけてというのではなく、ただ放したらしい。そのうち、老人の、「この野郎また捕つてきやがつた」という声がする。一堂、いったい、「何を捕つたのだらう?」と思う。窓から見れば、シェパードは、でかいぶち猫を、まるで、猫がネズミを捕ってくるように捕ってきたのだった。この件により、蛇笏の陰鬱が「一くぎりされる」。


 


  秋暑く家畜にのびし草の丈


 


 という一句で、この「随筆」は、結ばれる。まあ、なんと、ボルヘスちっくであることよ!

 

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