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『アメリカン・スナイパー』──うまい。(★★★★★) [映画レビュー]

『アメリカン・スナイパー』(クリント・イーストウッド監督、2014年、原題『AMERICAN SNIPER』)

 

 今回も、「大きな物語」に取り込まれることを回避し、あくまで狙撃用ライフルの、光学照準器(スコープ)の視界を「見せる」ことによって、イラク戦争というものをリアルに描き出している。戦地、人々、空気など。少年も、残虐者も、スカーフを被った女も、髭を生やした男も、すべてスコープの中の世界にいる。観客はまるで、主人公とともに、イラクへ何回も行ってきたような疲れを覚えるが、描き出されているものは、民家のドアや室内にすぎない。実際はもう少し、俗っぽい「回想録」なのかもしれないが、イーストウッドは、それをまたして純文学にしている。アメリカの「伝統」(?)である、ハードボイルド風に、主人公の生き様を描く。

 

 『ハングオーバー』に引き続き、今回も、「無駄にイケメン」(笑)のブラッドリー・クーパーであるが、2007年の、同じ海兵隊のスナイパーを演じた、マーク・ウォールバーグの『ザ・シューター/極大射程』の頃より、さらに進化した狙撃用ライフルと一体化したかのような演技はすばらしい。彼の傍らにいたのは、目標地点の、状況や湿度、空気の動きなどを読んで射手に伝える役目であろうか。射程距離は1キロを超える。弾道はまっすぐではないので、さまざまな状況が加味されなければならない。主人公のクリスは、こういったものをすべて読み、冷静な判断を下さなければならない。したがって、射撃はオリンピック並の競技となる。敵方もスナイパーはシリアから招かれた、元オリンピック選手。スナイパー対スナイパーの戦いが、本作の抑制されたクライマックスだ。

 

 

 それもこれも、すべて、「本部」では、モニターに映し出され、スナイパーの活躍も記録されている。ある歴史家によると、戦争の世紀というのは、第一次世界大戦からまだ続いているそうである。イーストウッドはそれを、今回も淡々とスピーディーに描くだけである。マカロニウェスタン時代に学んでいた映画の文法。今回も、そのうまさに、ただ脱帽というしかない。



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