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『ハイネケン誘拐の代償』──オランダ版『現ナマに体を張れ』? (★★★★) [映画レビュー]

『ハイネケン誘拐の代償』(ダニエル・アルフレッドソン監督、 2014年、原題『KIDNAPPING MR. HEINEKEN』

 

 30年以上前にオランダで起こった、あのビール会社の富豪、ハイネケンが誘拐された事件を題材にしたものだが、なぜ今頃になってこういう題材を映画化しようなどと思ったのか? はっきりいって、キャッチコピーが作りにくい(笑)。なにも売り物はない。「名優、アンソニー・ホプキンスがハイネケンに!」とはいえ、ジジイなどそれほど人の関心を引かない。「幼なじみの5人組の誘拐犯の一人に、サム・ワーシントン!」といっても、どこか地味っぽい。実際、『アバター』以外に、とりたてて話題になった作品もない。(『崖っぷちの男』はよかったが、あまり思い出せない(笑))

 しかし、この地味な作品、妙に惹かれる。まず、計画は失敗に終わる。しかし、誰も死んでいない。結局、生活に困って誘拐を思いついた幼なじみの五人組は、誰ひとりとして犯罪の素質のある人間はいなかった。人質を傷つけることはおろか、殺すこともできなかった。おまけに、ハイネケン会長とその運転手のふたりを誘拐してしまったために、その後の扱いが面倒になる。誘拐ほど割に合わない犯罪はないと言われる。おまけに、平然としてかつ要求まで出す、アンソニー・ホプキンス扮する人質のハイネケンに結構いいように操られる。

 犯罪をまっとうできない弱い心が、ひとり、またひとりと、敗北を重ねていく。事件史上最大の身代金と言われるが、それを受け取ったはいいが、その金の重さを計算に入れてなかった──。ちなみに、「イスラム国」が日本政府に要求した身代金も、米ドル紙幣で数百キロになる(ゆえに、非現実的要求だった?)。5人は意見の相違から、ばらばらになるが、オランダからパリへと逃げた、スタージェス、ワーシントン組(の主役二人)が最後まで残る。しかし、それも、スタージェスの身重の妻へのかけた電話から(実際はほかの密告にもよった)居所を知られ、パリ警察に囲まれる。そこで投降。その後、5人の様子が、字幕のみで語られる。たいていは懲役11、2年で釈放されている。そして、主役二人は、オランダマフィアの頂点に立ったとある。その後、暗殺だったか。

 オランダ人の役者は、主だった役には一人もいない。おもに、イギリス人とオーストラリア人俳優が演じている。ほんとうは、アンソニー・ホプキンスの役は、ルトガー・ハウアーがやり、監督は、スウェーデン人のダニエル・アルフレッドソンではなく、ここはやはり、生粋オランダ人の、ポール・バーホーベンでいきたかった。そうすれば、もうすこし迫力が出たかも知れない。しかし、まあ、このテの地味な犯罪映画には、小さく光っている魂のようなものがある。いまの鳴り物入り、ど派手な押しつけがましい映画にはない、映画の魂のようなものが宿っている。と、まあ、そんな気がした映画だ。

 

 


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