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『雪の轍 』──「トロイア」より愛を込めて(★★★★★) [映画レビュー]

『雪の轍』(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督、2014年、原題『KIS UYKUSU/WINTER SLEEP)


 


 映画でしか見られないものがある。本作の「風景」などまったくそれである。カッパドキアに旅行した人はべつとして、こんな風景がまだ地球に存在しているのかと驚く。それだけでも、この映画は見る価値がある。まるで、テオ・アンゲロプロスの映画のように、古代の都市であった、今はさびれた(観光地以外は)場所で、激しい人間の情念ともの言わぬ自然が融合する。かつて、トロイアと呼ばれた場所。洞窟を穿って住処としている。甲羅のような丸くて大きな洞窟は、SFチックでもある。窓やドアはクラシックなものが取りつけられている。ほんのり見える赤みを帯びた明かりが、そこで人が生活をしていることをうかがわせる。


 物語の主な舞台となるホテル『オセロ』も、そんな洞窟にドアや窓がついている「建物」だ。自然がすぐそこまで迫り、野生の馬やウサギも棲息する。ここにも古代からずっと続いているものもありそうだ。そんな非現実的とも見える、時代から取り残されてしまっているかのような場所にも、インターネットがあり、携帯電話も使えるのに驚く。


 確かにキャッチコピー(「チェーホフ+ドストエフスキー+ショパン)そのままに、チェーホフのような、人間(夫婦、兄妹)の言葉による愛憎劇、ドストエフスキーのような、極貧の家族、ノスタルジックなショパンの音楽が、うまくマッチして、ドラマを運んでいく。なにかが暴露され、対立も露わになるが、実際には、「なにも起こらない」。この場所の時間は、こうして流れてきたのだろう。何千年も。あのトロイアが陥落した日から──。


 


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