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『職業としての小説家 』──真に自立している作家(★★★★★) [Book]

『職業としての小説家』(村上春樹著、2015年9月、スィッチパブリッシング刊)


 


 私は村上春樹の作品というのは、読めば突っ込みを入れたくなる。それは、たぶん、求めているものとは違うからだ。イギリスの本格小説愛好家がアメリカのハードボイルドを読めば、その「薄っぺらさ」に違和を感じる。たまたま、ロス・マクドナルドの小説を開いた時、村上春樹の小説はコレだと思った。それを、日本に移しているから、なにかとってつけたような、嫌らしい感じ、金井美恵子センセイからは、「幼稚なポルノ」みたいなことを言われる。しかも、村上作品には、かなり多くの性描写、美女が簡単にフェラチオしてくれるとか、そういうのが多いので、小谷野敦のような「作家」からは、「やっかまれる」もととなる(笑)。批判者は、「オナニー」とも言う。しかし、オナニーではないと思う。現に、第一の読者は、村上春樹夫人であるからだ。まあ、アメリカ映画を観ていればわかるけれど、アメリカの進歩的な人って、性的には、こんなんですね。クリントン元大統領も、ハマってしまったし(笑)。もともとアメリカにはピューリタニズムがあって、それへの反抗からこんなふうになったのではないかと思う。


 そんな私ですが、本書を読んで感心しました。完全にプロが良心的に、「手の内を明かして」ますね。これは、イチローが自己を語るのと似ています。35年間、小説を書くことだけで、大学教授にもならず、文学賞の選考委員にもならず(だいたい、日本の「有名作家」はこれらで食っているといっても言い過ぎではない)、生活してきたのですから。


 芥川賞ってのは、文藝春秋の「権威授与祭り」ですね。そういうのをもらって、涙ながらに「これでまともな作家だ!」と喜ぶのも自由ですが。『公募ガイド』に、元「小説新潮」の編集長氏が出て言ってました。「作家の寿命は10年」だと。それは、春樹氏も書いています。そういう日本の出版界で、35年、一流作家であり続けるのは、大したもので、そういう人のノウハウは、そりゃ、学んだ方がいいです。まあ、日本で真に、筆だけで自立している作家は、村上春樹と大江健三郎だけでしょう。


 ただ、長編小説が、35年で、13作程度というのは、決して多い数字ではない。世界的に見たら。ジョン・クリーシーという作家は、30年で440冊以上出し、文章もすぐれていたと、植草甚一が『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』で紹介しています。


 好みはいろいろだろうけれど、まず、「世界レベル」に達した作家と言っておきましょう。ちょっと推敲のしすぎで、そのわりには「結果」がよくわからないムキはありますが(笑)。


 あ、おまけですが、本書の題名、マックス・ウェーバーの、『職業としての政治』『職業としての学問』(ともに岩波文庫)にあやかったものと思われますが、「政治」「学問」が、分野の名前なのに、「小説家」というのは、すでに「職業名の一種」で、そのへんの違いはどうなのかな? とちょっと突っ込んでおきます。前者は、「政治は暴力」であるを基本認識とし、後者は、「学問を職業にするとは、大学での不本意な専門的細分化をも受け入れ」ていかねばならないとしていて、本書ととも、読むに値する本です。かなり薄いですし。この三冊、どこか「共鳴」しているような気もしますと、最大級のホメことばを書いておきます(笑)。

 



 

職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: 単行本



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