SSブログ

『黄金のアデーレ 名画の帰還』──黄金のヘレン・ミレン(★★★★★) [映画レビュー]

『黄金のアデーレ 名画の帰還 』(サイモン・カーティス監督、2015年、原題『WOMAN IN GOLD』


 


 さすがBBC製作だけあって、ナチスの悪行も表現として最小限に抑えられ、どこからどこまでも未成年に見せても、なんら隠す場面はないように品格のある作りになっている。しかし皮肉なことに、そういう抑制されかつ美への配慮もされている映画ながら、語られていることは存外奥が深く、果たして成熟途上にある未成年がどれだけ理解できるかは、はなはだ疑問だ。それは欠点ではなく、それだけ「おとなの映画」であるということである。


 ナチスに奪われた美術品を取り返す、といえば、最近では、『ミケランジェロ・プロジェクト』などを思い出すが、本作のテーマは単なる奪回ではない。それは心の回復。主人公の、もとはウィーン人であったマリア(ヘレン・ミレン)にとっては回復だが、彼女の「闘争」の弁護を引き受けた、友人の息子の新米弁護士ランディ(ライアン・レイノルズ)にとっては、アイデンティティの発見である。彼は、シェーンベルグの孫で、ホロコースト記念館で、ユダヤ人としてのおのれの出自に対面して、ひそかにトイレで泣く。そこから、彼の、「本気の」弁護士としての行動が始まる。


 オーストリアといえば、ヒトラーの出身地であり、戦後も裕福な人々が多いとされる国である。しかしもしかしたら、「汚さ」では、ドイツを上回るかもしれない。それが、堂々と、美術館にナチスの収奪品を国の宝として飾っているゆえんである。そういう姑息な国を相手に、「カジュアルな訴訟国」、アメリカ人が、出自の誇りをかけて「闘う」のである。それは優雅な闘いでもある。なぜなら、老齢のヘレン・ミレンが、店を持ち、自立した生活を営み、小娘のような心を、孫のような(実際には、親子程度の違いだが)男にぶつける。男は男で成長し、かつ、ヘレンを丸ごと抱きとめる大きさを持っていく。これは、かなり恋愛に近い関係である。そういう微妙さを、39歳のライアン・レイノルズと、今年の秋70歳になったばかりのヘレン・ミレンが演じる。


 ライアン・レイノルズといえば、『ゴースト・エージェント』で、殉職してあの世の捜査官になったさい、「先輩」のジェフ・ブリッジスにやれっぱなしになる。とくに、ブリッジスの、現世のアバターが若くてチョーいい女なのに対して、レイノルズのアバターは、「チャイニーズ・オールド・ガイ?」なのであった。そのふて腐れぶりがすばらしかった。その小僧っ子風を本作にも持ち込み、だんだん成長していく姿を見せる。一方、ヘレンは、エリザベス女王役をはじめ、60代で80代をやるのにはなんの躊躇も見せない。老いてはいるが、決して醜さは見せない。すっとした背筋や自然な表情、着こなしは、老いも悪くないと思わせる、さすがの「ダム」である。そういうコンビが見せる、まさに黄金の輝きに満ちた作品である。

 



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。