【詩】「失われた『犬論』を求めて」 [詩]
「失われた『犬論』を求めて」
むかし、手に負えない犬、くろが死んだ時書いた
「犬論」という詩は失われてしまった。
今、記憶のかけらを拾い集めると、
こんな感じだった──。
人は犬という形のなかに、
さまざまな心情を流し込む
風のなかで、
次々に死んでいった犬の名前を繋げてみる
……
犬よ、われわれだって、生きながらえるわけではない。
なかでもベルは、小学三年生の時
はじめて飼った犬だった。
近所の友だちの家のスピッツに子犬が生まれ
おそらく雑種だったが、もらってきた
ひときわ雑種らしい犬
騒がしく鳴くので、「ベル」とつけた
その犬は、一年もたたないうちに
流行病で死んだ。
貧しい家では獣医なんて考えもつかず
ただ薬局で買ってきた人間用の薬を
呑ませていた。
ベル、クレ、パンキー、ラッコ、るー太……
私になにができたというのだろう?
今の犬を精一杯かわいがる
そういう鎮魂しか思いつかない
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