【詩】「こじまさん」 [詩]
「こじまさん」
出社すると編集長が(私は大学を出てすぐ地方新聞社に勤めていた)、
「山下くん、きみんちの隣りが火事だから、すぐ帰りたまえ」と言った。
「え? さっき出てきたばかりですよ」
と訝りながら戻ると、火の手はなくて、道端に人がおり、「防犯」の帽子を被った父がいたので、
「火事って、どこ?」と聞くと、こじまさんちを指差した。
よく見ると、家の形はそのままあったが、内部は黒く焼けただれていた。
周囲には縄が張り巡らされていた。
原因は、いちばん下の男の子のマッチの火遊びで、
その子は火傷で重体だったが結局死んだ。
ひどいショックを受けなかった。
近所でもそうウワサにならなかった。
こじまさんの家は、
てっちゃん、としひこちゃん、すみちゃん、女子、しょうご、えいじ
の六人
てっちゃんは私より三歳上で、近所の工事会社で働かせてもらっていた
二人で運ぶ重い鉄棒の一方を持たせると
いきなり放してしまうことがあったという
給料日には、お菓子を山ほど買ってしまう
てっちゃんも風の日に花火をしようとして
うちの物置(といっても借家だったので、となりの大家さんの所有)を火事にしてしまったことがある
それでも共存していた
月日が経って、こじまさんのオバサンは亡くなっていて、
オジサンは鉄工所を始めたいというので、
もっと郊外を希望していて、
近所の周旋屋さんのはからいで、
父のもとめた郊外の土地と、
交換することになった。
それで、実家は、こじまさんたちがいた
土地に建っている。
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